『月のかぐや』
JAXA〈宇宙航空研究開発機構〉/編著、 新潮社、
1365円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明

 本気の科学と技術が遠く月世界へ誘う

 夜空を見上げるのが大好きで、宇宙のことをもっと知りたいと願ったとき、人は何をめざせばいいだろう。宇宙飛行士になって地球の外へ飛び出してゆく夢を抱くのもひとつだが、答えはそれだけではない。ぼくたちは探査衛星をつくって月や火星へ送り、機械の目や手を通して遠い世界を感じることもできる。日本の月探査衛星「かぐや」はそのことを教えてくれた。
 本を手にとってページをめくってほしい。白と黒の色調で閉じ込められた数々の月面写真を前にして、宇宙の静寂と生々しさが肌にじかに伝わってくるだろう。手を伸ばせば届きそうなほどの質感に圧倒されるだろう。これらは2009年6月にその使命を終えて月面に落下した「かぐや」がぼくたちに届けてくれたデータを、研究者・技術者が解析・加工してつくり上げた、芸術ともいえる画像だ。
 本書は関東平野より大きなティコのクレーターを皮切りに、数々の景勝地へとぼくたちの目を誘う。数珠のようにつながったふしぎなクレーター群。溶岩の流れた跡地「海」。そしてカバージャケットにも写る、氷があるかもしれないと期待された暗黒の南極地域。そのクレーターの真っ暗な内部をとらえた画像の、なんと美しいことか! しかもこの本は、クレーター脇に将来の観測で着陸する候補地点まで指し示してくれるのだ。ぼくたちはそこへ降り立つ未来へ想いをはせる。
 「かぐや」に搭載されたカメラを開発した技術者、プロジェクトの責任者、「かぐや」の計画を最初に描き出した提案者などが本の後半に続々と登場する。短い言葉の中に、万感の思いと専門家としての自負がこもっていてかっこいい。彼らが何をめざし、何を発見し、何をぼくたちに見せようとしたのかくっきりと伝わってくる。林公代さんと渡部潤一さんの的確な解説文のおかげだ。本気の科学と技術が詰まったこの本を読めば、宇宙に興味がなかった人でも、きっとめざす熱い何かが見つかるだろう。

(朝日中学生ウイークリー 2010年1月17日号より)





『宇宙がよろこぶ生命論』
長沼毅/著
ちくまプリマー新書
819円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明

 生命起源に迫る人見て宇宙ニッコリ

 『日本沈没』で有名な作家・小松左京さんが、こんな話をなさっていたことをおぼえている。「ぼくは最後に考察エッセイをやってみたいんだ。宇宙にとって生命とは何か、知性とは何か、それから文学とは何か。宇宙は自分を認識してもらうために人間を生んだという考え方もできるだろう。宇宙は知性が生まれたのを楽しいと思っているのかな。ぼくはもっと宇宙を喜ばしてやりたいという気持ちがあるんだよ」

 今回紹介する本は『宇宙がよろこぶ生命論』。小松左京さんに真っ正面から答えようという意気込みにあふれた一冊だ。実際、文中には小松さんの小説にも言及があるから、著者の長沼さんは日本の名作SFを意識していたに違いない。生物学者である長沼さんはこの本の半分を南極大陸で書いたという。そういえば小松さんのSF『復活の日』は南極が主要な舞台だった。

 ぼくたちの身体は化学物質でできている。その物質はこの宇宙で生まれ、この地球の一部としてつくられた。だから生命についてとことん突き詰めると、地球の岩石を構成する元素や、さまざまなものを溶かし、ぼくたちの身体になくてはならない「水」というふしぎな物質の謎に直面する。水の化学的な特徴を知らなければならない。エネルギーについても学ぶことになる。もちろん地球や宇宙の生い立ちについてもだ。

 ぼくたちは生物学や化学、地学、物理学を別々の学問だと思いがちだが、実は「生命」とは何かを考えるとき、すべてはつながっているわけだ。そのような道筋で生命や生き物を考えること、それが宇宙を喜ばせることなのだ。生命起源の謎に迫る長沼さんの語り口は前のめりで熱い。高校以上で習う化学の話題も出てくるが、長沼さんは手抜きをしない。だが大丈夫、長沼さんといっしょなら、むしろ今後の勉強が楽しみに思えてくる。

 なぜこの世界に生命が生まれ、ぼくたちはここにいるのか。そんな疑問が宇宙につながる。宇宙の歌声が聞こえてくる一冊だ。

(朝日中学生ウイークリー 2009年9月20日号より)





Globes 地球儀の世界
高井ジロル/編著
ダイヤモンド社
1890円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明

 私たちが住む星を宇宙から眺めれば…

 カバージャケットに浮かぶ1個の球体。都市の名前も、国境も描かれていないこの地球儀が示すのは、夜の地球の姿だ。目を凝らして見てみよう。日本列島では関東から九州にかけて太平洋ベルトが煌々と光り、韓国はそれと同じくらい鮮やかな輝きに満ちている。オーストラリアは海岸や内陸部にぽつぽつと都市が見える。人工衛星に乗って宇宙から見下ろしたら、こんな美しい地球が見えるだろう。しかし実際の地球なら裏側に昼間の世界が広がるが、この地球儀はどこを見ても真夜中なのだ。心が吸い込まれそうになってくる。

 おもしろい50種の地球儀をカラー写真で紹介したのがこの本だ。夜の地球儀の次に登場するのは、世界の飢餓状況や二酸化炭素排出量などがひとめでわかる環境儀。野生動物の分布がわかる地球儀や、雲まで写し取ってリアルな姿を再現した衛星写真地球儀もある。色弱の人も楽しめる地球儀や、磁石の力で本当に宙に浮く地球儀には、作製者の気持ちも込められている。

 この本の著者はサッカーが大好きらしい。いろいろな地球儀を見ながら、つい「ドーハの悲劇」でおなじみのカタールに目を向けたり、地球をプリントしたサッカーボールを紹介したりしている。つまり地球儀って教室の隅で埃をかぶっているお荷物というイメージがあるが、本当はぼくたちがどのようにこの世界を見ているかをいきいきと映し出す鏡なのだ。「世界観」といっていい。古い地球儀を見ていると特にそう思う。

 本書には月球儀や火星儀も紹介されていて、鮮やかなクレーターやぎっしり書き込まれた名前に圧倒される。ぼくたちを望遠鏡で宇宙へ向けさせるのに十分なインパクト。この本の著者も有名人の名前がついたクレーターを懸命に探している。月探査機「かぐや」が降り立った場所を自分で探してみるのも楽しそうだ。

 巻末では埼玉県の渡辺教具製作所へ行って、地球儀ができるまでの工程も密着取材。うーん、おもしろそう! 一度じかに見てみたい。

 

(朝日中学生ウイークリー 2009年7月19日号より)





隕石コレクター
リチャード・ノートン/著
江口あとか/訳
築地書館 3500円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明

 「一般の人にとっては、隕石はちょっとした好奇心を誘うものでしかないだろう。しかし、ごく少数の人々――隕石ハンターにとって、隕石は情熱そのものなのである」

 隕石、それは宇宙からやって来た石だ。そしてこの本はその隕石に魅せられた著者が、情熱のありったけをこめて隕石のすべてを書き尽くした、おそらく世界最良の隕石本だ。訳者のあとがきにもあるように、情熱は伝染する。読んだらあなたもいますぐ隕石を探しに外へ出て行きたくなる。

 本書は隕石の見分け方や探し方から始まって、クレーターの脇に博物館まで建ててしまうようなコレクターたちの熱い物語を経て、さまざまな隕石から見えてくる壮大な宇宙の姿を描き出す。最初は難しい言葉が多いと思うかもしれないが、やがて用語にも慣れて、むしろそういった言葉を通していつのまにか写真の隕石をじっくり見つめている自分に気がつくはずだ。

 穴が開いていたり、小さな粒がついていたり、断面積に格子状の筋が入っていたり。そういったふしぎなかたちは、すべて宇宙の姿を映し出していて、そこには化学的な意味がある。本書を読んでいると隕石の手触りさえ想像できる。遠い宇宙が自分の手のひらにあって、それに触れることの驚きと興奮を共有しよう。

 この本が見事なのは、隕石について読むことで、生命や地球、宇宙の謎まで視野が広がってゆくことだ。

 たとえば、火星からの隕石に生命らしき痕跡があったという発見の意味はどこにあったのか、火星に行った探査ロボットが何を成し遂げたのか、シューメイカー・レヴィ彗星が木星に衝突したとき科学者たちが何を見いだしたのか、そういった個々のトピックが、この本ではひとつにつながり、体系として頭に入ってくる。

 よい入門書で、かつ時代を超えて、大人になってもずっと大切にしたい本は少ない。これはその数少ない本のひとつだ。

(朝日中学生ウイークリー 2007年10月21日号より)




ビッグバン宇宙論
サイモン・シン/著
青木薫/訳
新潮社 上下各1600円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明

 本の世界を広げてゆくやり方にはふたつある。同じ題材を辿る方法と、同じ作者を読んでゆく方法だ。科学の本も例外ではない。

 サイモン・シンの『ビッグバン宇宙論』は、夏休みに科学書の世界を広げるきっかけとしてうってつけの本だ。宇宙はどうやって生まれたのだろう? 古代の人たちは地球が世界の中心にあると考えていた。しかし普通に空を見上げれば、天動説に納得してしまうのは当然のこと。昔の人にとって、それは最先端の科学的推論だったはずだ。

 つまり宇宙の謎を解き明かす人類の営みは、人類が自然を観察し、それを理論と摺り合わせてきた歴史だ。この本を読み進めてゆくと天動説と地動説を比較する表が現れる。最初のうち、天動説が優勢だ。でもさらに進んでガリレオの時代になれば、地動説に合致する観察結果の方が多くなってくる。科学が刻々と動いている様子が伝わってきて、心臓がどきどきしてくる。この緊迫感は本当にすごい。

 アインシュタインの相対性理論は、宇宙が一点から爆発して誕生したのかもしれないという恐ろしい仮説を導き出した。ビッグバンは本当にあったのか、それとも宗教家が考えたように、宇宙は永久不変のものなのか? アインシュタインは悩んだ末、宇宙が不変であるように、自分の数式を書き換えてしまった。ここからが第二ラウンドだ。両方の仮説を比較する表が現れる。最初は定常宇宙論が優勢だ。さあどうなる?

 著者のサイモン・シンは誤った理論を唱えた人を決して非難しないが、アインシュタインさえも英雄として書かない。そこが素晴らしい。すべての科学者がいきいきとしている。

 上下2冊のハードカバーだからといって怯まないでほしい。読み終えたらきみはきっと、さらに先の最新宇宙論を知りたいと思うだろう。サイモン・シンの『フェルマーの最終定理』や『暗号解読』も読みたくなる。
 「ああ、面白かった!」
そう呟いたら、次の一冊がきみを待っている。

(朝日中学生ウイークリー 2006年7月16日号より)

わたしも読みました!

東大院生・なう
 僕がこの本を読んでまず感じたことは、硬く難解に感じる科学理論にも、その裏には多くの人間ドラマがあるということだ。もちろん、「宇宙は一点から始まった」というビッグバン宇宙論そのものも非常に面白い。しかし、この理論が出来上がるまでには、多くの人がかかわり、研究者同士の協力や競争、時には争いや確執があった。戦争や宗教に翻弄されることもあったが、ようやく1つの理論が認められるようになったのである。

 本書では、天動説・地動説論争から現在に至るまで、何百年にもわたる紆余曲折の末にようやくビッグバン宇宙論が人々に浸透する歴史を、実に生き生きと描いている。この本を読めば、数字と式だけだと思っていた「科学」が、実にダイナミックで人間味あふれる存在であることに気づく。科学が苦手で嫌いだった人も、様々な視点から見つめる科学に親しみを感じられるようになるだろう。




ようこそ宇宙の研究室へ すばる望遠鏡が明かす宇宙のなぞ
布施哲治/著、くもん出版、1200円+税

 おすすめする人 東大院生うっちー

 宇宙の難しいことはわからないけれど、星空を見上げるのは好き。皆さんの中にはそんな人が多いのではないだろうか。空気のきれいな山などで見上げた星空の美しさに、息をのんだことがある人もいるだろう。この本「ようこそ宇宙の研究室へ」は、そんな人に贈る宇宙科学への招待状だ。

 この本には、宇宙と太陽系についての基本知識がまとめられているほか、望遠鏡のしくみと歴史、「すばる望遠鏡」の観測から得られた新しい発見、そして、「すばる」利用の手続きから実際の観測までの流れなどが、親しみやすい表現でつづられている。

 「すばる」は、国立天文台ハワイ観測所にある、世界最大級の天体望遠鏡だ。どのくらい大きいかというと、望遠鏡の中にある鏡の直径が8.2m。これだけ大きな鏡を作るのはとても大変なことで、実に7年もの歳月が費やされたという。誰も見たことのないものを見たい、誰も知らないことを知りたいという、今も昔も変わらない人類の思いが込められた大きな大きな望遠鏡は、何億光年ものかなたの天体の姿を映し出し、私たちに宇宙のなぞを解き明かすヒントを与えてくれる。

 著者の布施さんは、小学生のころに読んだ図鑑をきっかけにして宇宙に興味を持ち、今もその頃の思いを大切にしながら、日々研究に打ち込んでいる。もしかしたら、この本のなかに皆さんの将来の姿が見えるかもしれない。

 

 

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