『私の中のあなた』(上・下)

ジョディ・ピコー/著
川副智子/訳
ハヤカワ文庫NV
各735円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明

 これは2004年に発売されるや大評判を呼び、最近キャメロン・ディアス出演でも映画化された話題の小説だ。映画の予告編を見た人は、白血病の少女が出てくる難病ものと思ったかも知れない。泣ける小説? 確かに泣けるが、それだけではない。深くあなたの心に突き刺さり、医療の本質と、そして生きることの意味について生涯考えさせる科学の本でもある。考え続けること、それは科学のいちばん大切なことなのだ。

物語は13歳の少女アナが弁護士事務所を訪ねるところから始まる。実は彼女はデザイナーチャイルドなのだ。彼女の姉ケイトが白血病にかかり、臓器を移植し続けなければ延命できない。その事実に打ちのめされた両親は、ケイトの治療に最適な遺伝子を持つ子どもをもうひとりつくろうとする。そうして生まれたアナは、両親たちを相手に訴訟を起こしたのだ。アナは活発な少女だったが、いつなんどき姉の手術が始まるかわからない。だからスポーツクラブの合宿にも行けない。もうこれ以上臓器を提供したくないと、アナは家族に対して声を上げたのである。はたして裁判の行方は?

作者のピコーさんは綿密な取材のもとに、医学の最前線とその倫理問題を描写してゆく。アナやケイトだけではない、彼らの両親や弁護士とその元恋人たちなどの心のひだをいきいきと伝えてくれる。この本には単純な善悪など存在しない。アナたちの母親であるサラが、ケイトの難病に向き合い、アナを産み、育ててゆくまでの人生を丹念につづったパートは、みなさんが親になったとき改めて心に響くだろう。物語の途中に何度も登場する天文学の比喩も美しい。そして本書が見すえる医療の問題は、iPS細胞の科学が発展するいまこそ鮮烈に映る。

終盤には驚きの展開が待っている。そして物語は2010年で終わる。そう、未来であった2010年は、もう目前だ。これは未来で“いま”の物語なのだ。あなたはアナと何を語り合うだろう。デザイナーチャイルド…受精卵の段階の遺伝子操作で、遺伝で伝えられる性質を選択されて生まれる赤ちゃん

(朝日中学生ウイークリー2009年12月20日号から)



『人を動かす秘密のことば』

前田知洋/著
日本実業出版社
1365円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明

 穏やかな笑みとやさしい語り口が魅力的なマジシャンの前田知洋さん。その前田さんが書いた本書は、言葉に関する科学の本だ。意外に思うかもしれないが、たとえば前田さんのこんな指摘を胸に留めてほしい。
「カードを1枚選んでください」というより、「トランプの中で好きなカードはありますか?」とたずねたほうが、観客を人間的に扱っているような印象を与える。
なるほど、そういうちょっとした気づかいを知った上で前田さんのクロースアップ・マジックを見てみると、お客の心をほぐしながら、実に鮮やかにマジックを進行させていることがわかってくる。ぼくも趣味でカードマジックを練習することがあるけれど、誰かに演じるときは技術よりもコミュニケーションが大事だということが実感できる。ただ指先の技だけを見せつけても、相手は意地になってタネを見破ろうとするだけだろう。それではマジックに奥行きは生まれない。一流のマジシャンは”隠しながら表現する”ことに長けている。これは日常のぼくたちの会話と同じだ。
コミュニケーションの科学は現代でも非常に難しく、これからも発展の余地を残す未開拓の分野だ。食事に行こうと誘われたとき、相手を傷つけずにうまく断る言葉は? 会話はキャッチボールだといわれるが、必ずしもぼくたちは受け取ったボールをそのまま投げかえすのではなく、別のボールを投げることもある。「語用論」と呼ばれるコミュニケーション科学の重要な原理を、前田さんはマジシャンの経験からわかりやすく説いている。看護や福祉の道に進みたいと思っている人にも参考になるだろう。
前田さんのちゃめっ気ぶりもうかがえて楽しい。友人のマジシャンの誕生日パーティーに、前田さんが用意したサプライズとは? ウソのリスクをわきまえながら、その場にあったすてきなウソを演出する。やさしい言葉でつづられながら、実は奥深い科学の視点が隠されている、魔法のような1冊だ。

(朝日中学生ウイークリー2008年11月16日号から)



『サイのクララの大旅行――幻獣、18世紀ヨーロッパを行く』

グリニス・リドリー/著、
矢野真千子/訳
東洋書林
1890円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明

 かわいい表紙をまずは上下さかさまに見てみよう。鎧をまとったような奇妙なサイが描かれている。これは1515年の木版画だ。この画家は伝聞でサイを描いた。なぜ見ないで描いたかわかるかといえば、背中に一本の角が生えている! しかしヨーロッパの人々はこの絵をもとに、その後200年以上にわたって、ゾウと互角に戦う獰猛な一角獣を空想し続けた。
本書は1741年に、ひとりの若き船長によってインドからオランダへ運ばれた子どものサイ、クララの物語だ。船長のヴァン・デル・メールはクララを連れてヨーロッパ巡業の旅に出る。行く先々でクララは熱狂を呼び、貴族や庶民を惹きつけるがそれだけではない。クララは多くの画家や研究者にスケッチされ、博物学の常識を、科学的なものの見方を変えてゆく。
さあ、本の表紙をもう一度見てみよう。角も立派に成長したクララの絵には、もはや鎧のような模様も背中の角もない。クララは磁器で有名なマイセンの造形師と出会い、工芸作品に登場するサイの姿を変える。クララは人々の前で身体測定をして、その値は当時の百科事典に記載される。
著者のリドリーさんはクララの絵を出し惜しみする。当時描かれたクララの絵を細かく文章で紹介するのに、肝心の絵は本当に重要なものしか見せない。それがかえって想像力を刺激する。最後に登場するのは仮面をかぶった貴族とクララが描かれた絵だ。当時見せ物だったのは貴族の女性とクララのどちらだったのだろう? リドリーさんは当時の社会を活写しながら、現代の動物園のあり方にも通じる問題を鋭く提起する。
見事な広告戦略でクララを人気者に仕立てた船長と、オレンジが大好きなおっとりもののクララは信頼で結ばれた名コンビだ。17年も旅を共にした船長は、柔らかなクララの舌で顔をなめられながらきっと幸せだったことだろう。動物好きの人にも歴史や科学が好きな人にも心に響く一冊だ。

(朝日中学生ウイークリー2009年4月19日号から)



時速250kmのシャトルが見える トップアスリート16人の身体論

佐々木正人/著
光文社新書
740円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明

 シャトルといってもスペースシャトルではない。バドミントンで打ち合う、羽根のついたコルクのことだ。バドミントンはスマッシュ時の打球の速度があらゆる球技の中でいちばん速いのだという。時速250キロメートル以上にも達するシャトルを相手がレシーブするまでの時間はわずか0・3秒。その間に一流の選手は何を見て、何をとらえているのか?

 16人のトップアスリートにインタビューをしたのは、「アフォーダンス」という科学の概念を提唱した生態心理学者、佐々木正人さんだ。アフォーダンスとは自分が動くことによって見えてくる環境との関係性や、そこに生まれる意味のことだ。ロボットや芸術にまで応用されるこの概念を、佐々木さんはスポーツ選手へとぶつけたのである。F1ドライバーの鈴木亜久里選手は時速300キロメートルの世界で何を感じているのか? ぼくたちが知らない極限の世界を、佐々木さんは選手たちから引き出してゆく。それはスポーツであると同時に科学の最先端なのだ。

 バドミントンの潮田玲子選手は、コートで自分の苦手なブロックの空気が濃いと感じられるという。卓球の松下浩二選手は動体視力が鍛えられて、ラケットとボールがぶつかる瞬間が見えるそうだ。自分のラケットと球の摩擦、粘り具合までわかるというからびっくりする。ボート競技の武田大作選手はオールが水に入ってゆくときを「包丁で豆腐を切るように」と表現する。水を乱してはいけない、水がオールと「くっついた」瞬間に力を入れる。約七分間のレースで238回漕ぐとしたら、その軌跡には包丁を238本入れた跡が残るが、豆腐はまったく崩れていない、それがボート競技だと説明する。

 きみがスポーツをやっているなら、ここに描かれた選手たちのアフォーダンスをぜひ自分でイメージし、新たな”動きと環境の知能”をきみの力で発見してほしい。ぼくたちの身体には科学があふれている。その驚きを実感できる一冊だ。

朝日中学生ウイークリー2008年10月19日号から)



クルマの渋滞 アリの行列
西成活裕、技術評論社

 おすすめする人 東大院生関谷 翔

「急がば回れ」渋滞を科学する
2008年8月16日、お盆のUターンラッシュの最中に、渋滞のメッカである中央自動車道上り線小仏トンネル周辺で、渋滞緩和を目的とする実験が行われました。著者の理論によると、車間距離が40メートル以下に縮まると渋滞が起きやすくなるので、著者と大学院生が車6台に分乗し、1車線に3台ずつ、40メートルの車間距離を保ちながら走行し、渋滞を緩和しようというものでした。

 気になる実験結果ですが、大成功とはいかなかったようです。原因は先を急ぐドライバーが多かったこと。保っていた車間距離の間に後続の車が割り込み、渋滞緩和効果が得られなかったようです。急ぐ気持ちで渋滞が起こり、かえって時間がかかってしまう。これはまさに「急がば回れ」。

 本書には車の渋滞以外にも、人気店の行列、災害時の避難などの例があげられています。科学とは無縁に見えるものでも、現象をうまくとらえることで、科学の対象にできるのには私も驚かされました。渋滞を減らしてストレスの少ない社会を目指すためには、個人が周囲の動きに配慮する必要があると教えてくれる1冊です。



ご冗談でしょう、ファインマンさん
リチャード・P・ファインマン/著、岩波書店

 おすすめする人 東大院生今村 謙士

好きなことは、とことんやる
リチャード・P・ファインマンは、1965年に朝永振一郎らとともにノーベル物理学賞を受賞した理論物理学者だ。理論物理学といえば、世の中でもっとも難解な学問のひとつとして名高いが、この本には専門的な話はほとんど出てこないので安心して手に取ってほしい。ユーモアにあふれた文章に腹を抱えながら、最後まで一気に読み進めてしまうだろう。

 ファインマンの最大の魅力は、その強烈なまでの好奇心、探究心だ。物理学にのめりこんではノーベル賞をとるし、錠前破りにのめりこんでは軍の最高機密を盗み出すし、絵を描くのにのめりこんでは個展を開いてしまうし、ボンゴ(打楽器)にのめりこんではバレエの公演で演奏してしまう。他にも生物学やマヤ(メキシコの古代文明)の数学、女性の口説き方などなど、彼の興味の対象はどこまでも幅広く、好きなものはとことんやるという一貫した姿勢は痛快ですらある。

 自分が何かを好きになったら、その気持ちにとことん誠実に向き合っていく。そうすれば、仕事も人生もきっとうまくいくのだと、本書は教えてくれる。



ぼくの家は「世界遺産」

小松義夫/著
白水社、1500円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明

 小松さんはあるとき友達からインドネシア・スラウェシ島にあるふしぎな家のことを聞く。その島では子どもが生まれるとビッティという木を植え、子どもが育って大きくなったらその木を切って船の材料にし、残りで家を建てるのだという。ところがその木は曲がっていて、家の柱も曲がっているというのだ。

 この本はカメラマンでジャーナリストである小松さんが世界の家を見て回ったその旅行記だ。ふしぎな家が次々と登場する。ジャングルに建てられた巨大スタジアムのようなシャボノという集合住宅。ベネズエラの深い森の河岸につくられた水上家屋。小松さんはアメリカの出版社に連れられて、ティピというテントの中で170年も前の生活スタイルも体験する。三角錐の高い天井は気持ちよさそうだ。そしてインドネシアの島では本当にくねくねと曲がった柱の高床式家屋と出あう。小松さんはその家に上がって、ゆらゆらした柱を見ているうちに、その「自由」さに楽しさを覚え、感嘆する。

 家とは周囲に広がる大自然の環境とぼくたち家族の境界につくられるとびきり素敵な「遺産」なんだ、と読んでいて実感してくる。本書が面白いのは、家を探し訪ねている小松さんが、その土地で一歩ずつ環境に入り込み、人と対話し、道を進んでゆくその過程が自然体で書かれているからだ。小松さんはジャーナリストだから見事な写真を撮ってぼくたちに見せてくれる。もしきみが環境についての科学者なら、ここからどんな研究をしてみたいと思うだろう? 人々の暮らしとこの地球をどのような視点で結ぶだろうか? 壁に描かれる紋様、人々と共にある動植物の生態、季節に応じた生活の知恵。それだけではない。政治的に不安定な国とどのように向き合い、その社会や文化を学ぶのか。

 環境の科学はぼくたちに多くのことを突きつけてくる。これをきっかけに多くの本へ手を伸ばしてみよう。
書店や図書館、図書室の棚は、地球の入り口だ。

朝日中学生ウイークリー2008年5月18日号から)



アルツハイマー病にならない!
井原康夫、荒井啓行/著、朝日新聞社

 おすすめする人 東大院生のじ

食事の効果で体を守る
みなさんはアルツハイマー病を知っていますか? 脳の神経細胞が死んで、数が減少し、記憶力や判断力が低下して認知症になっていく病気です。日本では、アルツハイマー病を患った人は100万人以上いるといわれ、将来的にはさらに患者数が伸びるといわれています。

 この病気を完璧に治療する方法はまだありませんが、食生活などの生活習慣が病気と関連しているといわれています。例えば、魚、野菜、豆類などを多く摂取する地中海料理を食べていると病気の発症が下がったなどの報告があり、予防効果のある食事の研究が盛んになりました。さらに動物を使った実験で、クルクミンという物質に病気の予防効果があったといわれていますが、このクルクミンはカレー粉に含まれています。アメリカでは、クルクミンが実際に人に予防効果があるかどうかを調べる臨床治験も行われています。

 この本には食事のレシピがついているので、参考にしながら、料理に取り入れて、食生活を見直してみるのもいいかもしれませんね。



文章読本さん江
斎藤美奈子/著、ちくま文庫

 おすすめする人 東大院生べぇ

「流派」選んで書き物攻略
先日、修士論文というリポートの親玉をなんとか提出した。研究者は、この論文書きという苦行と一生つきあっていかなくちゃいけない。

 論文書きに限らず、文章書きにはみんな苦労するようで、本屋にいけば、「論文の書き方」「やさしい文章術」といった、文章読本と呼ばれる本がたくさん並んでいる。

 しかしこの文章読本、結構くせ者である。「話すように書け派」と、「話すようには書くな派」という2つの「流派」が対立しているのだ。

 本書は、綿密な調査と分析で、この「流派」対立に切り込んでいく。各「流派」の源流を突き止めていくうちに、著者はなんと、学校での作文教育にまでたどり着く。

 夏休みの大敵、あの読書感想文。その背後に「流派」間の覇権争いがあったとは……メイワクな話だ。

 僕の見立てでは、どちらの「流派」も一長一短。まずはどちらかの「流派」を極めてみることを勧める。



スタバではグランデを買え!
吉本佳生、ダイヤモンド社

 おすすめする人 東大院生べぇ

価格の秘密がわかるよ
昔々、僕が中学生の頃、友達とよくマクドナルドへ行った。だいぶ年をとった今、僕はおしゃれなコーヒーチェーン「スターバックス(スタバ)」に一人で通うようになった。

 スタバでコーヒーのSサイズ(280円)を飲みながら本を読む、というのが僕のささやかなぜいたくだ。本のタイトルにあるグランデというのは、特大サイズ(380円)のことを指す。これを買えだなんて、ぜいたくすぎる!

 なんでまたバカ高いグランデを薦めるのか? グランデはSのちょうど倍のサイズ。なんと、たった100円でSをもう1杯分飲めるのだ。

 なぜ追加分は安いのだろう? それは、新しく2杯別々にいれるより、一度に2杯分いれる方が楽だからだ。つまり、手間が少ない分安い。

 手間を考えると価格の秘密が見えてくる。薬代のほとんどが、研究者がかけたたくさんの手間に対して支払われているって、知ってた?



ゲームとしての社会戦略
松原望、丸善ライブラリー

 おすすめする人 東大院生べぇ

まるで人生の攻略本
人生は決断の連続だ、なんてことを昔の偉い人はいったらしい。決断なんていうとおおげさだけど、僕たちは毎日「今日は傘を持っていこう」など小さな決断を下している。

 この日々の小さな選択問題を「ゲーム」と呼んで、どの選択肢を選ぶのがベストなのかを研究している人たちがいる。

 その成果が凝縮されたこの本は、人生の攻略本といえるだろう。攻略本には、「不確実性」「エントロピー」「相関関係」などなど普通のプレーではなかなかみつからない秘密のアイテムが満載。ただしこれらのアイテムは、丁寧な説明があるとはいえ、使い方がちょっぴり難しい。まあそこは人生を攻略するアイテムなんだから我慢してほしい。

 秘密のアイテムを使いこなして日々の選択問題をクリアしていけば、将来はお金持ちになれる……かもしれない。



プリオン説はほんとうか?
福岡伸一/著、講談社ブルーバックス

 おすすめする人 東大院生みお

生物学版、仁義なき戦い
数年前、米国で牛海綿状脳症(BSE)を発症した牛が見つかり、牛肉の輸入が停止され、牛丼チェーン店から牛丼が消えました。BSE牛の脳に存在する異常タンパクが正常な牛に感染し、正常タンパクを異常型に変えるという大胆な仮説を提唱したプルシナー博士は、このタンパクをプリオンタンパク質と命名し、この「プリオン仮説」でノーベル賞を受賞しました。仮説であるはずのプリオン説が真実であるようにみえた瞬間です。

 しかしこの本の著者を含め、プリオン説を支持しない研究者もいます。ノーベル賞は決して科学のゴールではなく、いつでも新たな仮説の挑戦を待っているのです。

 プリオン説を裏付ける証拠と、それに反する証拠を追いながらこの本を読み進めていくと、プリオン説は本当に本当なのか?と思えてきます。ノーベル賞に挑む現在進行形の戦い、さて勝つのはどちら?



はじめて考えるときのように
野矢茂樹、PHP文庫

 おすすめする人 東大院生べぇ

哲学者と漫才しよう
古い哲学の本の中に、プラトンとかソクラテスみたいな偉い人同士が議論する様子を描いた話がある。これらは、対話形式で物語が進むことから対話編ってよばれている。

 この本も対話編といってもいいだろう。それも「あなた」と「哲学者」の対話。哲学者はこの本の中で、考えるってどういうこと?とあなたに問いかける。硬い話だからってすぐに対話をやめないでほしい。

 あなたの話し相手は、実は、哲学という難しいお話を笑い話に変えてしまうことができる陽気な哲学者、というか漫才師なんだ。例えば、君のことをいつも考えている、と話す男は、トイレに行くときも君のことを考えているのかな、とヘンな話題をもちだしてくる。

 対話編のもう一人の主人公となって楽しく漫才するだけで哲学的な考え方が身につくお得な本だ。難しく考えず、まずは愉快な読み物として楽しんでほしい。



議論のレッスン
福澤一吉/著、NHK出版・生活人新書

 おすすめする人 東大院生みお

授業がおもしろくなる?
「昨日はカレー食べたから、今日はラーメンがいいな」。こう言われたら、多くの人がうなずくでしょう。では、「昨日は英語のテストだったから、今日はラーメンがいいな」と言われたら? 変だと思いませんか。

 会話と議論には実は守るべき共通のルールがあります。『議論のレッスン』は、変な会話とまともな会話の違いを丁寧に説明し、そのルールを自然に身につけさせてくれます。会話がかみ合わないときは、ルールが守られていないのです。科学者が成果を発表して信用されるためにも、ルールに沿った議論ができないといけません。

 残念ながら日本の学校ではこのルールを教えないので、多くの大人が、ルールを知らずに変な議論や妙な会話をしています。

 この本を読めば、つまらない授業がなぜつまらないのかも、きっとわかるようになってしまいますよ!



世界一やさしい問題解決の授業
渡辺健介/著、ダイヤモンド社

 おすすめする人 東大院生ようへい

 例えば、中学生の君があるA高校に入学したいと思ったとする。そのためには何をしなくてはいけないだろう? この本はそんな目標を実現するためのガイドブックだ。

 まず目標はなるべく具体的にしよう。そこで「A高校にテスト入試で合格する。そのためには、A高校の入試問題で8割を解く」としてみる。次は、自分の現状と目標とのギャップを具体的に表そう。その結果、入試問題は過去問でまだ6割しか解けないとわかる。ここでめげずに、目標達成への方法を考えよう。まずはいろんな可能性を書き出す。どの教科、分野を伸ばそう? それから、その可能性の中から実現できる選択肢を絞り込んで、実行へのプランを作る。それで目標が達成できることを確認したら、あとは実行あるのみ。

 世の中には困難な問題が山積みで、それらを解決するためには自分で考えて行動することが重要だ。この本の方法を用いて、チャレンジしよう。



ネコを撮る
岩合光昭/著、朝日新書

 おすすめする人 東大院生べぇ

写真家が持つ科学者の目
東京大学の駒場キャンパスにはたくさんのネコがいる。キャンパス内のネコはかなり人になれているけれど、それでも近づいていくのはなかなか難しい。ましてや写真をうまく撮るなんて困難この上ない。

 ネコを撮るのが上手なことで有名な写真家の岩合光昭さん。そのイワゴーさんがネコを撮るコツを教えてくれる本が題名もそのものの『ネコを撮る』だ。

 プロの写真家のどんな素晴らしいテクニックが披露されているのかと期待して読んでみると、いい意味で裏切られた。上手に写真を撮るためのコツは、いかにうまくカメラを使うかといった小手先のテクニックではなく、ネコをしっかりと観察することみたい。

 これって実は研究と同じ。いい実験をするには、実験技術よりもまずはしっかりと観察することが大切。だから写真家の目を持つ人は、きっといい科学者になれるに違いない。



新ネットワーク思考
アルバート・ラズロ・バラバシ、NHK出版

 おすすめする人 東大院生べぇ

友達何億人できるかな?
広島駅の喫茶店で学会のプログラムを眺めていたときのこと。近くの席の女子高生が「○○ちゃんは島谷ひとみの親せきらしいよ」「へー、すごーい」といった話をしていました。

 有名人が身近にいると聞くと、やっぱなんとなく「すごい」と思ってしまいますね。実は僕もメジャーリーガーが身近にいます。おやじの会社の後輩が、マリナーズの捕手・城島と中学時代にバッテリーを組んでいたのです。すごいでしょ。

 でもこれって本当にすごいこと? 友達の友達をたどっていくと、案外みんなつながっているのではないだろうか。こんな問いに真剣に取り組んだへんてこな科学者たちがいて、この本の著者はそのうちの一人。答えはなんと「友達の友達の友達の友達の友達の友達」までたどればすべての人がつながっているという。

 世界は案外狭かった。この小さな世界は人と人とのつながり以外にも多く見られます。具体例は本で!



モモ
ミヒャエル・エンデ/著、岩波少年文庫、840円

 おすすめする人 東大院生とってぃ

モモと一緒に考える時間
1年のうち、授業の時間はどのくらいで、勉強や遊び、睡眠はどれくらいだろうか。中学生のころ、ぼくはいろいろ計算してみたことがある。学校にいる時間も寝ている時間も、生活の3分の1くらいだとか。

 さて、もしも時間を貯めることができるとしたら?

 「無駄なことはやめて、時間を貯めよう」。時間貯蓄銀行の灰色の男たちの誘いに乗って、大人たちが次々と時間の節約だけに心を奪われていく。異変に気づいた少女モモは、悩みながらも立ち上がる。

 エンデがこんな世界を書いたのは、いまから30年以上も前のこと。この物語はいまだに色あせない。

 その後も、ぼくらの生活は変化しつづけている。便利な道路が開通したり、思いついたらすぐに携帯電話で話せたり、ニュースを一瞬で見ることができたり。科学・技術がぼくらの時間をどう変えたのか、モモと一緒に考えてみてはいかが。



有機化学美術館へようこそ
佐藤健太郎/著、技術評論社、1659円

 おすすめする人 東大院生細川研知

ミクロの美しい世界へ
世界には、目では見えませんが確実に存在しているものがあります。例えば天の川は肉眼では薄い光の広がりですが、望遠鏡で星の距離を測って地図を描くと、棒渦巻銀河であることが分かります。

 私たちの体は原子で出来ているという話はよく聞くと思いますが、原子や分子の世界も決して肉眼では見えません。計測した数値を形に当てはめ、絵として表現することで、その美しい形がはっきりと見えるようになります。

 この本では様々な美しい構造の模式図から、ミクロの世界をかいま見ることができます。分子の姿はある法則によって決まり、その法則に従って動きます。ちょっと難しくなりますが、分子の踊る姿や論理的な面白さを知れば、ミクロの世界はもっと楽しめるようになると思います。



絶対音感
最相葉月/著、新潮文庫

 おすすめする人 東大院生とってぃ

 楽器がなくても「ド」の高さがわかる。幼いころの訓練で身につくそんな「絶対音感」は、はたして音楽に必要なのだろうか。最相さんは、音楽教室の先生をはじめ、音楽家や研究者など、200人もの人に話を聞きに行く。

 ぼく自身、小さいころから姉のピアノを聞かされて育ったので、中2のとき、逆に多くの人が絶対音感をもたないことを知って驚いた。そして自分自身をふりかえって、音楽を聞くとすぐに楽譜を思い浮かべていることに気がついた。音程もなにも考えずに、そのまま音楽に触れたいと思った。

 音だけみても、人それぞれに感じ方がまったく違う。それでも、音楽の感動をほかの人と共有できてしまうのは不思議なことだと思う。



「右と左」の不思議がわかる絵事典
富永裕久/著、PHP研究所

 おすすめする人 東大院生かむかむ

 鏡を見ると、もう一人の自分がいる。でも、上下は変わらず、左右だけがあべこべになるのはなぜだろう。この絵事典は右と左のあらゆる謎に答えてくれる。

 アラビア語が右から左へ書かれるわけは? 日本の自動車はどうして左側通行なの?など、ふと気付くと右と左には不思議なことばかり。ガッツポーズなど心からよろこんでいるときの動きは左右対称だけど、人目を気にしたポーズは非対称になる。今まで気にしたことはあるだろうか?

 右と左は、原子よりももっと小さな素粒子の世界から、銀河の渦の巻き方までありとあらゆるところに登場する。国語、数学、理科、社会、体育や音楽、給食にだって右と左は見つかる。今日から「右と左」をちょっとだけ意識して過ごしてみよう。絵事典にも載っていない新たな「右と左の不思議」を発見できるはずだ。



あたらしい教科書 0.学び
プチグラパブリッシング

 おすすめする人 東大院生とってぃ

 中学生のころは、生活の大半を学ぶことで過ごす。でも学びは学校を出てからも一生続くものであって、実は意外と楽しめるもの。この本では数学、哲学から、音楽、マンガ、お菓子まで、17人の学び続ける人びとが登場する。

 例えば雑誌やテレビの星占いで大活躍の鏡リュウジさん。占いは「ただの迷信かもしれない」と表明しながらも、占いに魅力を感じて研究を続けていて、さらに現代での意義も認めている。自分の経験や知識の枠にない「もう一つの視点」から物事をとらえることができる、と。

 17人が歩んできた人生をながめるだけでもおもしろいし、学校以外での学びを考えてみることによって、学校での学びが自分にとってどんな意味をもつかを見つけることができるかもしれない。



人間ものがたり
ジェイムズ・C・デイヴィス/著、日本放送出版協会

 おすすめする人 東大院生あっきー

 歴史を勉強していると、西暦と出来事の羅列のよう。ただ覚えているだけでは、おもしろくありません。

 歴史を楽しむには、登場人物の気持ちになってみましょう。「1853年・ペリーが浦賀に来航」とありますが、なぜペリーは日本に来ようとして、それに対し日本人はどう感じたのでしょう。歴史の背景には、かならず「人間」がいて、彼/彼女らの生々しい感情が、世界を動かすのです。つまるところ、歴史とは人間が作り出す「ものがたり」。こんなおもしろい話はありません。

 石器時代から、9・11米同時多発テロまで。歴史を知ることで現在を知り、そしていまも歴史の1ページが刻まれていると実感できるでしょう。ちょっと背伸びして、世界の歴史を感じてみてはいかが?

 

 

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