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マーク・ハッドン/著、小尾芙佐/訳
角川書店 1300円+税 |
おすすめする人 作家・瀬名秀明
次のようなクイズ番組を想像してほしい。3つの扉があり、そのうち1つの扉の向こうに賞金が隠されている。まずあなたは1つの扉を選ぶ。司会者は残りの扉の1つを開いてハズレであることを見せる。あなたには選んだ扉を変更する権利がある。あなたはどうするべきか。
別の扉に変えるほうが賞金獲得の確率は上がる。でも多くの人は5分5分だと錯覚する。養護学校に通う15歳のクリストファーは、夜中に串刺しにされた犬と遭遇したこの物語の主人公で、大の数学好きでもある。数学には明快な答えがあるけれど人生は複雑だ、と先生はいう。でも先生は数というものがわかっていないとクリストファーは思う。このクイズは人間の直感が間違うこと、しかし論理は正しい答えを導くことを示している。
ホームズ好きのクリストファーは、犬を殺した犯人を見つけようとするが、やがて死んだはずの自分の母親が生きていることを知り、その謎も解こうとする。この小説にはたくさんの絵や数式が挿入されていて、彼の考え方を追ってゆくうちに、きみは人間の心の不思議さと、科学がとらえる世界の面白さを再発見することになるだろう。クリストファーの興味の範囲は広く、彼は謎解きの過程で天文やカオスの問題にも取り組む。そこで彼が面白いと考えることを追体験することで、きみは認知心理学や社会心理学の領域まで踏み込む。
後半になって、クリストファーは母親を訪ねにひとりでロンドンに向かう。彼はロボットのようにすべての視覚情報を受け止めてしまい、省略することができない。情報の洪水をかき分けて母親に会うことができるのか。ポップでおかしく、しかも圧倒的な描写はきみの脳を揺さぶるはずだ。そしてクリストファーはどのように成長してゆくのか? 数学は彼をどのように大人にさせるだろう?
これは数学の物語で、かつ勇気の物語だ。そして「面白い」と感じるぼくたちの心についての、素敵なお話。
(朝日中学生ウイークリー2007年6月17日号より)
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