「無限」の考察
足立恒雄/著、上村奈央/絵、講談社
足立恒雄/著、
上村奈央/絵、
講談社1500円+税
 おすすめする人 瀬名 秀明

本当の自由は数学にあると気づくかも

 本のカバージャケットを見ると、タイトルの下に「∞―∞=?」とある。本を開く前に紙と鉛筆を取り出して、この答えを自分で考えてみてほしい。正直にいうと、ぼくもこの答えがわからなかった。無限大(∞)から無限大を引いたらゼロだろうか? いや、そもそも無限大は四則計算できるんだろうか? 無限とはいったいなんだろう? この本に答えが書いてある。ページを開いて読み進めると、なるほど!と納得して最初の数式にも答えられるようになる。答えは∞でもあるし、マイナス∞でもある。答えは1のときもある。つまり答えはひとつではなく、定まらないのだ。これを「不定」という。
そんなバカな、と思うかもしれないが、読めばそちらのほうが理にかなっていることがわかる。これは数学の本だが、世界を見るぼくたち自身のあいまいさを根本からとらえ直す驚異の本でもある。「無限」と聞くと、とても神秘的で不思議な感じがしないだろうか? しかしその不思議な感じは、ぼくたちが「無限」の定義をあいまいにしたまま漠然とイメージしているからだと足立さんは教えてくれる。そこが数学と他の自然科学の大きな違いだ。「時間」を定義するのは難しいが、数学はまずきちんと誤解の余地なく言葉を定義して、そこから自由に羽ばたく。ああ、そうか、本当の自由は数学にあるんだ!と気づく人も出てくるかもしれない。
本書は解析と幾何と集合における「無限」を扱う。後半はかなり難しくなるが、足立さんは決して説明をごまかしたりはしない。なぜなら雰囲気で流すことは「自由」ではないからだ。いったん足立さんの真っすぐさに接し、本書を読み進めると、自分の心や脳が澄んできて、考えることの本当の面白さを発見するかもしれない。
上村さんの挿画も美しい。特に黄色と青色が印象的だ。ページにこめられたたくさんの色彩は、宇宙に存在するぼくたち一人ひとりと、一つひとつの数を表しているかのようだ。



フェルマーの最終定理
サイモン・シン/著、新潮文庫
 おすすめする人 東大院生・べえ

フェルマーに挑み 名誉を独占
難しい問題について何時間考え続けたことがありますか? 本書の主人公ワイルズは、フェルマー予想という超難問に挑みました。中学で習う三平方の定理によく似ているのだけれど、300年も証明が見つからなかった問題です。彼はなんと8年間もこの問題だけを考え続けました。そしてついにあと一歩のところまでたどりつきました。
ワイルズは数か月間、途中経過を公開しませんでした。そして苦難の末、とうとう最後の一歩を歩ききったのです。
たった一人で問題を解ききったワイルズは名誉と賞金を手にしました。そして我々は超難問の証明を手にしたのです。
ワイルズが途中経過を公開しなかったのは、他の学者に名誉を横取りされたくなかったからです。ところで、もし我々が手にするものが難問の証明ではなく薬だとしたらどうでしょう。科学者は新薬の開発に成功したという名誉をなにがなんでも勝ち取るべきでしょうか? 名誉を望むあまり情報公開が遅れ、薬の開発が遅れては困ります。とはいえ研究にはお金がかかるのでデータをすぐ全部公開するわけにもいきません……。こちらの難問はいつ解けるのでしょうか?



パズル本能
マーセル・ダネージ/著、白揚社
 おすすめする人 東大院生・べえ

自然という「パズル」に導かれて
ぼくは新聞や雑誌でパズルコーナーをみかけるとついつい解いてしまいます。朝中にもありますね。解いていますか?

 少なくとも1万年前から人はパズルに取り組んでいたようです。なぜ人はパズルに引かれてしまうのでしょうか。本書は古今東西のパズルをその歴史とともに紹介することで、ついついパズルに取り組んでしまう「パズル本能」にせまります。

 古代、パズルは知恵比べの道具だったり、数学の教材だったり、貴族の遊びだったり、ときには魔術の道具だったりしました。またパズルの中でも「アキレスと亀」のようにパラドックスを引き起こすものは、「実数」や「無限」の本質を考えさせることで、科学の発展にも貢献しました。

 パズルは楽しく、想像力を刺激し、ときに実用的で、人生の意味について考えさせてくれます。そして、パズルのこのような特徴が「パズル本能」を刺激するのです。

 科学もパズルと同じような特徴を持ちます。ぼくは「パズル本能」が人よりちょっと強かったのかもしれません。だからこそ、自然というパズルに取り組む科学者になることを選んだのだと思います。



夜中に犬に起こった奇妙な事件
マーク・ハッドン/著、小尾芙佐/訳
角川書店 1300円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明

 次のようなクイズ番組を想像してほしい。3つの扉があり、そのうち1つの扉の向こうに賞金が隠されている。まずあなたは1つの扉を選ぶ。司会者は残りの扉の1つを開いてハズレであることを見せる。あなたには選んだ扉を変更する権利がある。あなたはどうするべきか。

 別の扉に変えるほうが賞金獲得の確率は上がる。でも多くの人は5分5分だと錯覚する。養護学校に通う15歳のクリストファーは、夜中に串刺しにされた犬と遭遇したこの物語の主人公で、大の数学好きでもある。数学には明快な答えがあるけれど人生は複雑だ、と先生はいう。でも先生は数というものがわかっていないとクリストファーは思う。このクイズは人間の直感が間違うこと、しかし論理は正しい答えを導くことを示している。

 ホームズ好きのクリストファーは、犬を殺した犯人を見つけようとするが、やがて死んだはずの自分の母親が生きていることを知り、その謎も解こうとする。この小説にはたくさんの絵や数式が挿入されていて、彼の考え方を追ってゆくうちに、きみは人間の心の不思議さと、科学がとらえる世界の面白さを再発見することになるだろう。クリストファーの興味の範囲は広く、彼は謎解きの過程で天文やカオスの問題にも取り組む。そこで彼が面白いと考えることを追体験することで、きみは認知心理学や社会心理学の領域まで踏み込む。

 後半になって、クリストファーは母親を訪ねにひとりでロンドンに向かう。彼はロボットのようにすべての視覚情報を受け止めてしまい、省略することができない。情報の洪水をかき分けて母親に会うことができるのか。ポップでおかしく、しかも圧倒的な描写はきみの脳を揺さぶるはずだ。そしてクリストファーはどのように成長してゆくのか? 数学は彼をどのように大人にさせるだろう? 

 これは数学の物語で、かつ勇気の物語だ。そして「面白い」と感じるぼくたちの心についての、素敵なお話。

(朝日中学生ウイークリー2007年6月17日号より)



ハッピーになれる算数
新井紀子/著
理論社 1200円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明

 どうして数学なんて勉強しなきゃならないの? という疑問に対して、昔からいくつかの模範回答がある。「きみの使っているケータイだって、数学の恩恵を受けているんだよ」というのがそのひとつだが、この答えは的確じゃない。「なるほど、でもそんな技術は数学の得意な人に任せておけばいいじゃない。私は将来、別のことをやりたいよ」と反論されそうだ。

 数学者の新井紀子さんは、『ハッピーになれる算数』の中で、別の模範回答を教えてくれる。それは「数学を学ぶことで、私たちは世の中の『仕組み(ルール)』を見抜いて、使いこなせるようになるんだよ」ということだ。

 ルールなんて窮屈だ、と思う人もいるだろう。新井さんはルールを理解することの意義を一歩ずつ示してくれる。小学校で習った割り算や率のルールをおさらいした後で、「円周率が3・05よりも大きくなることを証明せよ」という東大の入試問題を出して、これはみんなにも解けるんだと話を持ってゆくところなんて実にエキサイティングだ。

 何かを真剣に考えようとするとき、何かを自信を持ってやりとげようとするとき、仕組み(ルール)は融通の利かない束縛ではなく、最高に頼もしい味方になる。大人になってどんな仕事に就いても、このことを知っていれば決して自分を見失わない。

 昔のパイロットはどうやって何百キロも海上を飛んで、目的地にたどり着いていたのか。広場で蟻の穴を目指すようなものだ。少しでも行き先を間違えれば燃料切れで海に落ちる。なんと彼らは小さな計算尺だけで方向や到着時刻を正確に割り出し、それを信頼して飛んでいたのだ。これってすごい話だとぼくは思う。

 最後にもうひとつ模範回答を書いておこう。何かに没頭しているとき、人間の脳はもっとも自由になるそうだ。つまりルールを味方につけて難問に挑戦するとき、ぼくたちは好きな音楽や本に没頭している瞬間と同じく、自由なんだ。

(朝日中学生ウイークリー 5月21日号より)

わたしも読みました!

東大院生・かむかむ
 みんなの好きな数字はなに? ラッキーセブンの「7」? それともイチローの背番号の「51」? 僕の好きな数字は「1」。オンリーワンの「1」。世界で誰も知らないことを発見したい、世界中の誰とも違う自分になりたいなと思っている。そんな僕の大好きな数字の「1」は、実は算数や数学の中でもとても大切な数字だっていうことが、『ハッピーになれる算数』を読むと分かるんだ。

 文章題で単位の問題を解くときも、割り算や分数の問題を解くときも「基準の『1』」は何だろうと考えることが重要なんだって。小学校で算数が得意だった人も、苦手だった人も、そもそも「1」って何だろう、そもそも分数ってなんだろうと、この本を読んで考えてみよう。そんな難しいことできない? いやいや、かわいい「落書き」付きで著者の新井先生がゆっくり教えてくれるから大丈夫。読み終わった頃には、「1」について詳しくなっているはず。そして、どんなことにもいつも「そもそも……」と考えるようになっているかもしれないよ。



映画 おもひでぽろぽろ
DVD ジブリがいっぱいCOLLECTION・監督 高畑勲・ブエナビスタホームエンタ-テイメント
 おすすめする人 東大院生・かむかむ

 「千と千尋の神隠し」や「となりのトトロ」で有名なスタジオジブリの作品の中にも、算数はひそんでいます。「おもひでぽろぽろ」は東京に住む主人公のOLタエ子が、山形の親戚の家に出かける中で、小学校5年生の時のことを思い出すお話。

 タエ子の思い出の一つが「分数の割り算」です。分数を分数で割るってどういうことでしょう? リンゴをつつきながら、「3分の2を4分の1で割るっていうのは、3分の2個のリンゴを4人で分けたら1人何個になるかってことでしょう?」と悩みます。お姉ちゃんは「ひっくり返してかければいいの」と教えてくれるのですが、タエ子が「どうして」と質問すると、お姉ちゃんは答えられません。みんなもタエ子と同じような疑問を持ったことはありませんか? タエ子の疑問に答えることはできますか? 映画を見ながら、リンゴをつつきながら、考えてみましょう。(ヒントは『ハッピーになれる算数』にも載っていますよ)



多次元★平面国
エドウィン・A・アボット/著・東京図書
 おすすめする人 東大院生・たっけー

 ぼくらは三次元の世界に住んでいる。たて、横、そして奥行きのある「空間」だ。何を突然言い出すのかと思う人もいるだろう。そんなの当たり前じゃないかという人もいるだろう。でもよく考えてみよう。たて、横、奥行きの三つの方向があるから三次元なら、たてと横しかない平面は二次元ということになる。一方向しかない直線は一次元だ。では、次元が一つ増えた四次元の世界ってどんなのだろう。ふとそんなことを考えだした中学生のぼくが出会ったのが、『多次元★平面国』だった。

 この本は、二次元の世界、すなわち平面国を舞台にした物語だ。主人公は、正方形の姿をしたスクエア氏。彼は、ほかの平面国の住人と同様に、二次元の平面こそがこの世界のすべてだと信じていた。ところが、そんなスクエア氏のもとに不思議な来訪者がやってくる。来訪者は一見するとただの円なのだが、大きさを自在に変えたり、挙句の果ては姿を消したりもする。ぼくら三次元世界の人から見れば「球」だと分かるのだが、断面しか見えないスクエア氏には「化け物」としか思えない。それでも「球」は、あの手この手で三次元世界について説明してゆく。押し問答のすえ、スクエア氏は三次元世界の存在をぼんやりながらも理解するようになるというストーリーだ。

 さて、平面国のスクエア氏が三次元を想像できたのなら、ぼくらだって四次元を思い浮かべることができるはずだ。もしかしたら、もっと大きな次元だって理解することができるかもしれない。もちろん目で見ることはできないので、順を追って頭で考えていくことになる。実はそれが、数学の考え方でもあるのだ。

 この物語は今から100年以上も前に書かれたもので、平面国の階級制度や男女差別は古臭い感じが否めない。だが、正方形と球の言い争いなどは、むしろ新鮮なくらいだ。ひとつ残念なのは、この本が今は絶版になっており書店では手に入らないことだ。でも、ぜひとも図書館で探して、軽い気持ちで読んでみてほしい。スクエア氏も、球も、きっとそう願っているはずだから。



オイラーの贈物 人類の至宝を学ぶ
吉田武/著、ちくま学芸文庫
 おすすめする人 東大院生・とってぃ

 数学の本を読むのは時間がかかる。次の行へのつながりを解読するまで、何度も何度もあれこれ考えながら、やがて、ふっとひらめく。

 そんなぜいたくな時間を、いまからずっと、きっと高校を卒業してからも味わえるのがこの本。「物の個数を数えることから自然数という概念が生まれた」から始まって、中学数学はもちろん、大学での数学も次々に定義し証明しながら「以上より、オイラーの公式が得られた」に到達するのが234ページ目。ページをながめて15分だけじっと考える。無理そうなところはだれかに相談すれば道が開けるかも。

 むずかしい本を手元に置こう。何年間も付き合える本によって、これからの自分の変化をいつか実感できると思う 。

 

 

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