こどもアサヒ

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アゲハ蝶の白地図
五十嵐邁/著
世界文化社、2800円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明

 「インドの王様」の別名を持つチョウ、テングアゲハ。あまりの美しさに息をのむほどだが、その生態は謎に包まれていた。チョウの収集を趣味とする五十嵐さんは、アゲハチョウの生態図鑑をつくるためになんとしてもこの幻のチョウを見つけたいと願い、仲間と共にインドへとたつ。ついにテングアゲハを発見するが、どうしても幼虫が見つからない。テングアゲハの生活史を解き明かすことは著者・五十嵐さんのライフワークとなり、ここから世界を股に掛けた冒険が始まる。

 この本にはたくさんの学名が出てくるが、読み始めれば五十嵐さんのパワーに圧倒されて、ぐいぐい引き込まれてゆくはずだ。世界のチョウの白地図を少しでも自分色に染め上げようと、フィリピン、イラン、はてはブータンの山奥にまで出掛けてゆく。現地の車をチャーターして、セ氏50度のイラクを駆け抜ける。山全体がヒルの大群に埋もれている8月のインドでは、ついにテングアゲハの人工産卵に成功し、仲間へ喜びの電報を打つ。インドネシアの小島では乗っていた飛行機が墜落。機体が炎上しているのに七つ道具は決して忘れず、さらには緊迫した現場の前で記念撮影をぱちり。飛行機事故から帰還して英雄となった五十嵐さんは、日本人代表として政府の晩餐会にまで招待される。

 なるほど、アマチュアの採集家たちはこんなふうに情熱を注いでいるのか、と目をみはる描写もたくさんある。チョウのいそうな場所を直感で見抜き、一撃で網の中にチョウを捕らえ、あるいは羽化する様子を何時間も地面にはいつくばって観察する。手の上にそっと乗るチョウの重みまで伝わってくる。なにしろ五十嵐さんの記憶力はすばらしくて、こうやって仲間たちで夜明けまで体験談を披露し合っているのかとうらやましくなった。

 つねに旅行につきそい、夫の冒険を共に楽しむ奥様の人柄もすばらしい。五十嵐さんの冒険はまだまだ続くに違いない。

(朝日中学生ウイークリー 2008年3月16日号より)



ゾウの時間 ネズミの時間
本川達雄/著、中公新書
 おすすめする人 東大院生・みやび

 僕が中学生の時、幼い頃から一緒だった犬の小太郎が死んでしまった。同い年だけれど、小太郎はもうおじいさんだった。ペットを飼ったことがあれば、同じような経験をしたことのある人も多いだろう。

 この本では、動物のサイズと寿命、機敏さ、食べる量、体の形などの関係を紹介している。ちょこまか動く小さなネズミは寿命が短く、のろのろ動く大きなゾウは寿命が長い。けれども、哺乳類ならサイズによらず、一生の間にする鼓動の回数と呼吸の回数は等しい。心臓は20億回ドキンと打ち、呼吸は5億回スーハーとする。つまり、動物のサイズが違うと時間の流れる早さが違ってくる、というのだ。

 僕たちは人間として生まれて、人間の時間の流れの中で生きている。そんな時間の流れの中で当たり前なことも、見方を変えれば当たり前ではなくなることがある。異なる価値観に気づき理解することから、新しい発見は生まれるのではないかと思う。



細胞紳士録
藤田恒夫・牛木辰男/著、岩波新書
 おすすめする人 東大院生・みお

体を形作る美しい細胞
 私たちの体は、「細胞」が集まってできています。顕微鏡で自分の手を見たことがありますか? よく見ると、規則正しい敷石状の模様が見えます。実はその一つ一つも「表皮細胞」とよばれる細胞です。

 この本は、私たちを形作る細胞の「顔つき」や「仕事ぶり」を、電子顕微鏡で撮った美しい写真とともに紹介しています。細胞は本当に個性豊かで、見た目の美しさや緻密な並び方には圧倒されます。「ひげづらの四角顔」なんて、細胞の特徴や役割についても親しみやすい解説がついていて、お気に入りの細胞が見つかるかもしれません。

 この本をめくれば、こんなにきれいな細胞が自分を作っていたのか!ときっと驚くでしょう。「自分」って何?と思う人もいるかもしれません。残念ながら、その答えはまだ誰も知らないのですけれど。



迷惑な進化――病気の遺伝子はどこから来たのか
シャロン・モアレム、ジョナサン・プリンス/著、矢野真千子/訳
NHK出版、1800円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明

 モアレム博士はアルツハイマー病と診断された祖父を助けたいと願って生物学の道へと進んだ。祖父はなぜか、血を抜くと元気になった。もしかするとアルツハイマー病は血中の鉄分の量と関係があるのでは? モアレムさんは、体の中に鉄分が蓄積してしまう珍しい遺伝性疾患があることを知って不思議に思う。なぜぼくたちは体によくない遺伝子を受け継いでいるんだろう? 迷惑な遺伝子も実は人類進化の過程で重要な意味を持っていたのでは?

 本書はそんな疑問に駆られたモアレム博士が、科学ライターと組んで書き上げたメディカルミステリーツアーだ。カエルは血糖値を上げて体を凍りにくくさせることで寒波をしのぐ。ならば人の糖尿病もそんな適応進化の名残では? そんな大胆な仮説が展開されるかと思うと、DNAのメチル化という現象が病気や個性に深くかかわっている最新の研究成果も見事に解説されている。一卵性双生児の指紋が微妙に異なるのは、このメチル化のためなのだ。

 ううむ、へえ〜と思わずつぶやきたくなる話題が次々と登場する。病気についてここまでポップに語れるのは著者ふたりの才能だろう。

 さて、体内に鉄分がたまってしまう病気の遺伝子は、なんと3人にひとりの西ヨーロッパ人に受け継がれている。実はこの病気を持つ人は、免疫細胞には鉄を取り込ませないという性質も持っていて、ペスト菌に感染したとき有利になるのだ。ペスト菌は鉄を好むので、この病気の人が持つ免疫細胞には逆にやられてしまうのである。つまりこの病気のおかげで、中世のペスト大流行時代を生き延びることができたのかもしれない。いま人類にとって迷惑な遺伝子も、ある状況下ではその人の命を一日でも長くする大切な個性だったのだ。

 これは謎と奇跡の話である、とモアレムさんたちは冒頭で述べている。確かにその通り。ぼくたちはどこから来てどこへ行くのか。それを語る遺伝子は、皮肉屋でお笑い好きなのだ。

(朝日中学生ウイークリー2007年11月18日号より)



またまたへんないきもの
早川いくを/著、バジリコ
 おすすめする人 東大院生・のじ

 みなさんは「プラナリア」という生物を知っていますか? 形態はナメクジに似ていますが、かわいい目をしています。この生物の胴体を半分に切断すると、あたまからしっぽが、しっぽからあたまができて新たな2匹のプラナリアが誕生するのです。この不思議な生物の再生力に注目が集まり、傷ついた臓器や組織を再生させる研究に用いられています。

 じつは、わたしたちが住んでいる地球にはなじみがないだけで奇妙な生物はたくさん確認されています。その一部を紹介しているのがこの本、『またまたへんないきもの』。水深550(メートル)で発見され、メタンを餌とするメタンアイスワーム。個体の全長が40(メートル)もあるクダクラゲ。変ないきものというよりも変な名前のスベスベマンジュウガニ。この本から地球に存在する生物の多様性が垣間見えるかもしれません。

 ただ、人間ではない別のいきものから見たら、わたしたちも「へんないきもの」なのでしょうね。



植物のこころ
塚谷裕一、岩波新書
 おすすめする人 東大院生・べぇ

植物と僕の意外な一面
 昔読んだ少女漫画に、いじめっ子が捨て猫にミルクをあげているのを偶然見かけた女の子がキュンとなってしまう、というシーンがありました。思いがけない一面を見つけることでものの見方が変わってしまうこと、ありませんか。僕は枝豆の意外な一面を発見してから植物の見方が大きく変わってしまいました。

 それは、実験を終え、仲間や教授と一緒に軽くお酒を飲んでいたときのこと。つまんでいた枝豆のさやを、ふと光に透かして眺めてみたところ、さやにも葉っぱと同じように葉脈が走っていることを発見したのです。

 植物の様々なカタチを読み解いた本『植物のこころ』によると、さやに限らず、花やトゲ、そしてハエトリグサのぱっくんちょさえも全部がもともとは葉っぱだというのです。

 発見以来、僕は植物を見るたびに葉脈を確認するようになりましたが、こんな僕の一面をみてキュンとなる女の子は残念ながらいないようです。



ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ
佐藤克文/著
光文社新書 840円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明

 「データロガー」という小型のハイテク機器がある。ロガーとはログを取る機械、つまりデータを記録してくる装置のことで、本書の著者・佐藤さんはペンギンやカメなどにこれを取りつけて放す。そして彼らが海中でどのような生活をしているのかを調べているのだ。

 著者略歴欄を見て驚いたのだが、佐藤さんはいま40歳。ぼくより年上だ。しかし佐藤さんが初めて書いたこの本は、瑞々しい感性に溢れている。懸命にデータロガーをつくり、調整と準備を重ね、そして初めて南極へ行く。そこでペンギンたちを目の当たりにして、彼らの生態をひとつずつ丹念に探ってゆく。水中では電波が届かないので無線通信は難しい。だから後でロガーは自分で回収しなくてはならない。南極の平原を埋め尽くすように立つペンギンの群れから、佐藤さんは自分のペンギンを探すのだ。もし寝坊してペンギンを逃したら、また数週間待たないといけない。佐藤さんは各国の研究者たちと協力しながら、新たな成果を掴み取ってゆく。

 それは、本書の題名通り、ペンギンもクジラも水中では秒速2メートルで泳いでいるという意外な事実だった。他にも、恒温動物と思われたペンギンが水中では体温を下げて基礎代謝を減らし、吸い込んだ酸素の消費を抑えていることもわかった。どれもいままでの常識を覆す科学の発見だ。

 ぼくたちはいままさに科学のとば口に立った見習い生のように、まるでシャクルトンの南極探検に志願した100年前のイギリス青年たちのように、佐藤さんの筆致と一緒に南極を進んでゆく。ハイテク装置も必要だが、何よりも大切なのは現場へ行くこと、工夫を凝らすこと、そして運を掴むことだ。

 佐藤さんはまだ文章を書き慣れていない。全体の構成もぎこちない。でも佐藤さんの熱意がストレートに伝わってくる。読み進めるうち、「自分もこうやって科学を始められるんだ!」という発見の歓びが湧き起こる。さあ、最初の一歩を踏み出そう。

(朝日中学生ウイークリー 2007年9月16日号より)



オルカ
水口博也/著
ハヤカワ文庫 640円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明

 アメリカ本土とアラスカの中間に位置するジョンストン海峡。ここで水口さんはテントに寝泊まりしながら、「キラーホエール」ともかつて呼ばれたシャチを観察し続けていた。冒頭からぼくたちは惹き込まれる。早朝の大気は冷たく、髪はぬれ、睫毛に水滴が絡む。島々と森と霧、そして海獣たちが噴き上げる潮、墨絵のような無彩色の世界。写真家でもある水口さんの文章は巧みだ。ぼくたちは水口さんに入り込み、そして水口さんの知識に触れながら、圧倒的な世界を目の当たりにすることになる。

 本書はシャチの研究の歴史から、いま人類が直面している環境問題まで、巨大なテーマを扱っている。しかし何よりもいきいきしているのは、シャチを観察する水口さんと友人ジェフの日常、彼らの息づかい、そしてその目を通して描かれるシャチの生態そのものだ。

 ある晩夏、水口さんたちはシャチの群れが怒濤のように進んでくる現場に立ち会う。年に1、2度、突然やって来る「スーパーポッドの日」だ。いくつかの家族に分かれて普段は生活しているシャチたちが、一斉に集合して祭りのように身を躍らせ合う。まるで異星にすむ知的生命体を見るようだ。この本は海の生物について書かれているのに、ぼくたちは読みながら宇宙の未知の生命と遭遇しているような興奮さえ覚える。

 水中カメラを仕掛けようとした直前、水口さんの眼前にシャチが現れ戯れ合う。なすすべもなく水中カメラを握りしめたままシャチを見つめるその無念さと、そしてその時間を共有できたことの豊穣さ。カヤックに荷物を積み込むと舟が沈み、目の位置がほんの少し下がるだけで景色が一変し、心が自然に同化するという何気ない一文。近距離でシロナガスクジラが潜り、最後にその尾びれがこつんとカヤックにあたる、その感触。水口さんが転覆しないようおもんばかったクジラの知性。

 1冊の本が冒険の扉を開き、世界を広げる。ネイチャーライティングの傑作だ。

(朝日中学生ウイークリー 2007年8月19日号より)



もやしもん
石川雅之/著、講談社
 おすすめする人 東大院生・ようへい

微生物の営み、身の回りに
 目に見えないくらい小さな微生物が僕らの周りに大勢いて、僕らを病気にするものがいれば、健康に保つものもいる。マンガ『もやしもん』の主人公は、そんな微生物たちが目に見える大学生。直接見える微生物の姿を通して、その産物である発酵食物の奥深い世界に、親しんでいく。

 実は、僕らでも顕微鏡を使わずにこれらの微生物を見ることができる。寒天の粉を1.5%程度の分量で肉汁などのスープで煮て溶かす。それをシャーレなどの透明な容器で冷やして固まらせて、寒天培地を作る。この寒天培地を手で触ったり、納豆を置いたりして数日置いておこう。うまくいけば単一種の微生物の集団であるコロニーが表面に出来て、ブドウ球菌やら納豆菌やら様々な微生物を見ることができる。ただし、有害な微生物がいる可能性があるので直接触ったり、吸い込んだりしないように注意。身の回りで繰り広げられる微生物の営みを実感してほしい。



生物と無生物のあいだ
福岡伸一/著、講談社現代新書、777円
 おすすめする人 東大院生・みお

ミステリーみたいな生物本
 この本には生物学の歴史や研究者たちが織り成すドラマが鮮やかに描かれています。例えば千円札に描かれている野口英世は、様々な病気を研究して成果を発表し続けました。でも今ではそのほとんどがうそだといわれています。彼は大ウソつきだったのでしょうか? いいえ、そこには彼が生きた時代ならではの理由があったのです。

 教科書などを読んでいるだけでは伝わってこないけれど、生物学は、研究者の個性や情熱と、偶然や必然が重なり合って進展する、とてもスリリングな世界なのです!

 後半では先端の分子生物学にも触れられます。この本を面白いと思える人こそが、生物学研究の次世代を担っていくのだと思います。我こそは!というあなたも、生物は覚えることばっかりで嫌いと思ってしまったあなたも、生物学にかかわる者だけが味わえるドキドキ感を体験してみてください。



ゲノムサイエンス
榊佳之/著
講談社ブルーバックス 940円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明

 科学との出合いはふしぎで運命的だ。1953年、ワトソンとクリックがDNAの二重らせん構造を発見して、遺伝子と分子生物学の時代が始まった。やがて遺伝子の解読が進むにつれて、ヒトゲノムの暗号すべてを読み取ろうという動きが出てくる。「生命」の本質を知りたいと願った榊佳之さんはその時代の流れを全身で受け止め、ヒトゲノム計画を日本で推進した。

 本書は榊さんがこれまでの人生を振り返り、ヒトゲノムの研究の歴史とこれからの未来を語った講義録だ。榊さんは難しいDNAのしくみもきちんとかみ砕いて伝えてくれるから、生命科学に興味のある人ならきっとこの本のすべてを理解できるだろう。榊さんは好奇心旺盛な科学者でしかも情熱家だが、語り口はとてもジェントルなのだから。

 これを読めば世界の科学者が共同で研究を進めることの意義だけでなく、お金もうけや国際外交の問題にどのように向き合ってゆくべきなのか、そして本当に人の役に立つ科学研究とは何なのかといったことにまで思いが及ぶはずだ。そして同時に、DNAの研究はこんなにすごいところまで来ているのかと驚くだろう。榊さんはあくまで穏やかに書きつづっているが、今後の5年、10年で起ころうとしていることは確実に世界のあり方を変えてゆく。

 例えば1000ドル払えば誰でも自分のゲノム情報が得られて、疾患リスクがわかるようになる。いずれ全人類のゲノムが解読される時代が来るだろう。ヒトだけでなく周囲の環境にすむ虫や動植物たちのゲノムもわかり、ぼくたちはこの世界を大きな生命システムとして認識できるようになる。そんな時代を前にして、これからの科学者が挑戦できることはたくさんある。

 すでにぼくらは次の大きな時代の潮流に入り込んでいるのだ。そう考えるとわくわくしてこないだろうか。読み終えて身体が火照っていたとしたら、あなたは榊さんの情熱を確かに受け継いで科学者になったのだ。

(朝日中学生ウイークリー 2007年7月15日号より)

わたしも読みました!

東大院生・みお
 皆さんはヒトゲノム計画という言葉を聞いたことがあるでしょうか?ヒトのゲノム、すなわちDNAで書かれた約30億文字分の遺伝情報をすべて解読しようというこの計画は、いくつもの国が協力する超巨大プロジェクトでした。著者の榊さんはこの計画の日本代表の一人となり、東京大学医科学研究所にゲノム解析センターを設置して、ダウン症の原因にもなる21番染色体をドイツのグループと共同で解読しました。センターを設置させてくれる機関がなかなかみつからず、プロジェクトを始めることすら危うかったり、アメリカに強敵が突然現れて計画そのものが変更になったり、最後に成果を発表するときになってもぎりぎりまでもめていたなど、実際に関わっていた人だからこそ書ける、ハラハラする裏話がたくさん出てきます。

 本の後半では、ヒトゲノム計画が終了した今、何が起ころうとしているのかが紹介されます。赤ちゃんがお母さんと一緒に病院を出るとき、全ゲノム配列のデータを持たされるようになるかもしれません。それを使えば、その人にはどの薬が効いて、どれは効かなくて、何に注意すれば病気にならなくてすむかなどがわかるかもしれません。現在の「一般的に効果がある医療」が、「ひとりひとりに最適化された医療」=「オーダーメイド医療」に変わるときを私たちは目の当たりにすることができるでしょうか。

 榊さんはとてもアツい人です。医科学研究所にいたとき、同じ研究所内にいる他の教授(本にも出てきます)と日本のゲノム研究の方向性をめぐって激しく対立し、その仲の悪さが、世界的に有名な科学雑誌「ネイチャー」に取り上げられてしまうほどでした。そんな人が、定年退職にあたってまとめ上げた、集大成ともいえる本です。DNAの二重らせん構造が解明された1953年にまだ小学5年生だった榊さんは、その13年後に大学院で研究者としての第一歩を踏み出します。それはまさに、DNAから生命のしくみを明らかにしようという研究がされはじめた時期でした。ゲノム研究の歴史そのものともいえる人の物語、ここには知っておくべきことがすべて書いてあります



捨てるな、うまいタネ
藤田雅矢/著
WAVE出版 1300円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明

 「そのタネ、まいたら、芽が出ます。」

 ふだんなにげなく食べているイチゴやミカンやカボチャ。みんなはタネをどうしている? ペッと吐き出して生ゴミに? ちょっと待って、いつも捨てているそのタネをまいてみよう、というのがこの本のメッセージだ。たった1粒のタネには、楽しいことがこんなにたくさんつまっている!

 さっそく巻頭のカラーページをめくってみよう。キウイフルーツのタネまき日記がとても楽しい。たった2ミリのタネが17日後に発芽、ぐんぐん大きくなって個体差もついてくる。冬を越えて温かくなると芽吹いてきて、棒でも支えきれないくらいどんどんつるが伸びてゆく。まさにオビに書かれている通り、「こんなに楽しいこと、知らなかった!」と感動するはず。

 環境のことには興味があるし、花も好きだけれど、ガーデニングってめんどくさそう……、とつい思ってしまいがちだけれど、植物と親しむ暮らしはこんなに簡単に始められる。学校で試してもいいし、家でウェブ観察日記をつけてもいい。アボカドのように実を収穫するまで10年かかるものもあるから、じっくり育ててつきあってみるのはどうだろう。

 この本にはタネの取り出し方から保存法、タネのまき方までやさしく書かれているけれど、読み進めるうちに植物のしくみや日本の食糧事情もわかってくる。うどんや醤油も外国産の穀物に頼らざるを得ない自給率の低さや、便利な生活を追求して品種が減っている現実。丈夫な野菜や果物をつくるために品種改良がなされていて、それは大切なことだけれど、おいしい植物はやっぱり在来種。作物は生き物、「同じ親から生まれたのにカタチも性格もいろいろだわ」と実感し、成長に一喜一憂してみることが大切だ、とこの本はいう。

 さあ、タネをまいてみよう。ひょっとしたらあなたは天性のグリーンフィンガー(緑や花を育てる能力のある人)かも?

(朝日中学生ウイークリー 2006年9月17日号より)

わたしも読みました!

東大院生・みお
 「今すぐタネがまきたくなる本」この本のオビには、そう書かれています。これが、誇張でもなんでもないのです! 本当に、読んでいるうちにタネがまきたくなってうずうずしてきてしまいます。皆さんも、タネが手元にある状態で読み始めることをおすすめします。

 え、タネなんかうちにない? 困りましたね。そういうときは、果物や、タネがありそうな野菜を買ってきましょう。ぶどう、梨、リンゴ、柿、メロンにかぼちゃ、ピーマン。今まで捨てていたけれど、タネってどこにでもあるのです。

 この本は、そういう、今まで食べたあと捨ててしまっていたタネを植えてみよう、という内容です。例として、キウイのタネを植えてみたときのことが、カラーページに写真入りで紹介されています。「タネをまいてから17日過ぎて、やっと芽を出しました。昨年まいたパイナップルは、2ヵ月半経って芽が出ましたので、パイナップルに比べると早い発芽です」なんて書いてあります。タネから芽が出るというのは、当たり前に思えますが、本当に大変な、奇跡的なことなんですね! それを自分の家のベランダで目撃できるのですから、こんなにすばらしいことはありません。

 この本を読んだあなたが、今日食べた梨のタネを植えてみよう!と思い立ったら、そこには正解はありません。タネがいつ芽を出すか? 本当に芽を出してくれるのか? 何個植えたら何個生えてくるのか? 誰も知らないのです。そう思うだけで、なんだかドキドキしませんか。

 ほら、タネをまきたくなったでしょう? この本には、どうやってタネをまいたらいいかはもちろん、発芽のしくみや、日本の食糧事情、タネにまつわる歴史など、ちょっと難しい問題も書かれていて、社会の勉強にもなります。この本を読む前と読んだあとでは、世界の見え方、野菜売り場の見え方がまったく変わることうけあいです。みなさんも、ぜひ読んでみてください。



フィンチの嘴
ジョナサン・ワイナー/著、ハヤカワ文庫
 おすすめする人 東大院生・あっきー

 舞台は南米エクアドルの西、太平洋上に浮かぶガラパゴス諸島、そこに愛くるしい鳥・フィンチが生息している。だが、同じフィンチでも、島によって嘴の形や長さがまったく違う。なぜこのような違いが生まれたのか。そこには、現実に進行している「進化」が存在したのだ!
 研究者・グラント夫妻が、「進化」の実態を徐々に解明していく姿には引き込まれる。「科学の研究」というと難しいイメージがあるが、研究をするグラント夫妻は、鳥と接して、とても楽しそうだ。そんな科学者の内側の顔にも迫れるのは魅力。1995年、ピュリッツァー賞受賞作。



ダーウィンのミミズの研究
新妻昭夫/文
杉田比呂美/絵
福音館書店 1300円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明


 動物学者の新妻昭夫さんは、あるときダーウィンの書いたミミズの本を見つけた。進化論で有名なダーウィンがミミズの研究を始めたのは28歳のときで、本が出版されたのは亡くなる前年、72歳のときだ。40年以上も研究していたことになる! ミミズなんて夏休みの宿題みたいな研究に、なぜダーウィンは熱中したんだろう?

 興味を持った新妻さんは、ダーウィンの仕事を調べ始める。この絵本『ダーウィンのミミズの研究』をめくれば、ダーウィンの熱意が新妻さんに乗り移ったことがわかるだろう。各ページに情報がびっしりつまっていて、とにかく読み応えがあるのだ。

 ダーウィンはビーグル号で世界を航海して、島が何百万年もかけて沈むことや、島によって小鳥のくちばしの形が変わることを発見した。長い時間で地形が変わるなら、すんでいる生き物の形だって変わるかもしれない。そう考えてダーウィンは進化の研究をしながら自分の庭先にいるミミズも観察し続けた。牧草地がなだらかで土も細かいのはなぜだろう。ミミズが地表にフンを運んで地形を変化させるからじゃないか? 山の隆起はさすがに人間では観察できないけれど、ミミズが土をたがやす様子なら自分で調べられる。

 そう考えたダーウィンは庭先に白亜の破片を撒いてじっと待った。そして29年後に土を掘り返す。破片の層は地表から17.5センチのところにあった。つまりミミズは1年で約6ミリの肥沃土をつくるのだ!

 でもこの絵本がすごいのはここから先だ。「ダーウィンの庭を掘り返してみたい! 彼が撒いた白亜は、いまどこまで沈んでいるのだろう?」と疑問に駆られた新妻さんはイギリスへ行くのだ! さあ、その顛末は?

 小さなミミズからこんなにもスリリングな科学の世界が広がるのだ。杉田比呂美さんのイラストも素敵で、ダーウィンの規則正しい毎日なんてクスクス笑いながらずっと眺めていたいほど。研究の醍醐味をこの一冊で体感しよう。お薦めの傑作。

(朝日中学生ウイークリー 2006年8月20日号より)

わたしも読みました!

東大院生・うっちー
 ダーウィンはなぜ「進化論」という大胆な説を思いつくに至ったのでしょうか? 「ビーグル号に乗って、ガラパゴス諸島に行くことができたから」。それもひとつの理由でしょう。でも、この本を読むと、船に乗る機会に恵まれたことだけでなく、ダーウィンの熱意や几帳面さ、ものすごい気の長さがあったからこそ、進化論が生まれたんだと思えてきます。研究熱心すぎて家族にあきれられている姿は、偉大な科学者というよりは変なおじいさんですけれどね。

 さて、うんとマジメな読み方をすれば、この本は科学的な「検証」の物語です。難しそう? いえいえ、絵本ですから! それに、ミミズと土の関係を調べる方法は、たとえばミミズのふんを一年間拾い続けるなど、時間はかかるけれど至ってシンプルです。研究ってこういう風にやるんだ!ってことがわかったら、科学や科学者がもっと身近に感じられるかもしれません。気軽に、みんなに読んでほしい本です。



雄と雌の数をめぐる不思議
長谷川眞理子/著、中公文庫
 おすすめする人 東大院生・かむかむ

 あなたのクラスに男子は何人いますか? 女子は? 「男子だけ」、「女子だけ」なんて人もいるかもしれません。では、あなたの住んでいる街は、日本は、世界はどうでしょう? 男と女の数はほとんど同じですね。でも実は、雄と雌の数が異なる生き物はたくさんいます。ワニは、卵が孵化する温度によって雄になったり雌になったりします。スコットランドのある島に住むシカは、グループ内での母親の順位が高いと雄を、低いと雌を産みます。そこには動物たちの様々な作戦が隠されているのです。
 みんなと同じ頃に初めて読んだちょっと難しめの本です。高校生や大学生も知らないことを知っているとちょっとうれしくなります。

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