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『モグラ博士のモグラの話』 |
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川田伸一郎/著、岩波ジュニア新書
819円+税 |
おすすめする人 作家・瀬名秀明
モグラ博士? どんなにすごい人なんだろう?と著者紹介も確かめずに読み始めたら、50(ページ )ほど進んだところで博士号の証状を手にしたフレッシュな男性の写真が出てきて驚いた。あわててカバージャケット袖を見ると、おお、ホシバナモグラなる動物を捕まえて最高の笑みを見せる川田さんの写真がある! 1973年生まれの川田さんは7年前に博士になったばかり。みなさんの親戚にも同年齢の人がいるかもしれない。そう思ったらモグラ博士に親近感がわいてきた。
川田さんは子どものころから昆虫採集が大好きで、いつも図鑑を見ていたそうだ。とうぜん、友達からつけられたあだ名は「昆虫博士」。大学に入学してからは学生寮で仲間と青春の日々を送る。そんな川田さんが卒業研究を機にモグラと出会い、実家のクリーニング店を手伝いながら勉強を続け、モグラサミットなるシンポジウムを聴きに行って研究への情熱を燃やし、新たな研究室の門をたたいて博士号を取るまでの話が詳しく書かれている。なるほど、カバー裏にも書いてあるように、これはモグラの生態記録というより、本当に博士になった一匹のホモ・サピエンスの生態自己観察記録だ。
なかでもモグラ捕りのフィールドワークの話がおもしろい。ゴルフ場に次々と棒を突き刺してモグラの居所を突き止める名人が出てくるかと思えば、川田さんもロシアの地では粘りに粘った作戦を披露する。現地の人とのコミュニケーションが大切と力説する川田さんは、ロシア語で「僕はモグラを待ち伏せしているだけで、決して怪しい人ではありません」といえるようになったとか。その川田さんがいちばん大切にしている言葉は「ありがとう」。
後半は、モグラ博士が何を研究しているかの具体的な解説だ。骨や遺伝子の違いを丹念に調べてモグラの進化を追ってゆくその姿に、「博士」になることの本当のおもしろさをあなたも見つけるかもしれない。
(朝日中学生ウイークリー2009年11月22日号から) |
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『ダーウィンと進化論――その生涯と思想をたどる』 |
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クリスタン・ローソン/著
大森充香/訳
丸善
2940円+税 |
おすすめする人 作家・瀬名秀明
今年はチャールズ・ダーウィンが生まれて200周年、『種の起源』が出版されて150周年にあたる。ダーウィンは「進化」の概念をはじめてはっきりと人々に示し、世界の見方を一変させてしまった人だ。今年は「進化」についてたくさんのイベントが全世界で開催される。進化論をはじめから学ぶ絶好の機会だ。
年表で1809年生まれの有名人を調べてみよう。ミステリーやSFの元祖、E・A・ポオが生まれている。『種の起源』が出た1859年は? ホームズの作者コナン・ドイルが生まれている! ダーウィンの時代、人々はどんなことを考え、なぜ進化論に衝撃を受けたのだろう?
本書はちょうど新しい世界へ踏み出そうとする人にこそふさわしい、隅々まで味わい深くておもしろいダーウィンの伝記だ。たくさんのイラストと風味豊かな文章には、本当に知りたいことがきちんと組み込まれている。ダーウィンのおじいさんやお父さんたちの生活ぶりや、当時の有名な科学者たちも目に浮かぶように描かれている。あちこちにちりばめられたコラムも楽しくて、ダーウィンの大好物だったケーキのレシピもあるし、ラテン語も一緒に勉強できる。ダーウィンの実験も自分で再現できる。読むうちに自分も進化学者になりたくなる。
そして著者のクリスタン・ローソンさんは、ダーウィンが進化論の本質を見いだせたのは当時の人口問題や労働問題があったからだと語る。科学の発見はその時代とかたく結びついている。歴史や社会が科学とつながるという事実に驚くかもしれない。でもこれが本当の科学への第一歩だ。あちこちへアンテナを張りめぐらせ、考え続けて、初めてぼくたちは自然界の真理を発見できる。
それにしてもビーグル号の航海はなんて楽しそうなのだろう! ふしぎな地層や珊瑚礁を見て地球の雄大な動きに思いをはせ、火山を間近に見て、採集に明け暮れる。進化を学んだらきっと世界を旅したくなる。そして本と科学の世界も。
(朝日中学生ウイークリー2009年3月15日号から) |
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ハダカデバネズミ |
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吉田重人、岡ノ谷一夫/著
岩波書店
1500円+税 |
おすすめする人 作家・瀬名秀明
裸・出歯・鼠。なんとキョーレツな名前だろう。ところがいま彼らは上野動物園で人気急上昇中らしい。動物と音楽が大好きな科学者、岡ノ谷さんは、アフリカに住むこのヘンテコな生き物を学会で知って衝撃を受ける。このネズミたちは一匹の女王のもとに社会をつくり、さぼっているところを女王に見つかった兵隊係はひっくり返って服従のポーズを取るのだ。まるで小説『家畜人ヤプー』じゃないか。しかも17種類の鳴き声で複雑なコミュニケーションをしているという。岡ノ谷さんは学生と海外へ飛んで、さっそくネズミを譲り受けてくる。
この本にはかわいいイラストや写真が満載なので、見ているだけでも楽しいのだが、本当の読みどころは岡ノ谷さんと学生さんたちがいかにハダカデバネズミで研究の面白さを見つけ、実現してゆくかというその過程にある。もうひとりの著者である吉田さんは、岡ノ谷さんの研究室で初めてデバの研究で博士号を取った学生だ。岡ノ谷さんと吉田さんはバトンを渡し合いながら、ふたりの視点で交互に考察をつづってゆく。
まずは飼育環境を整えるまでが一苦労だ。大学が停電のときは正月でも学生が出てきて発電機を見る。騒々しい学園祭がネズミを驚かせてしまう。動物を研究するとは、まず飼うことから始まるのだ。そしてこつこつと新しいアイデアを研究に結実させる努力。デバたちは地下にトンネルを掘って生活する。その中で鳴き声はどのくらい届き、どんな発声であいさつし合っているのか? 吉田さんは何か月も苦労し、工夫を重ねながら、デバたちの声をマイクで録音し、周波数を確かめてゆく。そしてあるとき偶然、吉田さんは一匹のデバが不思議な歌をうたうのを目の当たりにする。夢中で録音したその周波数が本書には収められている。まるで異世界からの暗号メッセージのようなその波は美しく、神秘的だ。
研究することの面白さにぜひ触れてみてほしい。
(朝日中学生ウイークリー2009年1月18日号から) |
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クマムシを飼うには |
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鈴木忠、森山和道/著
地人書館
税込1470円 |
おすすめする人 作家・瀬名秀明
クマムシを顕微鏡で初めて見たときは驚いた。緑のコケが浮かぶシャーレをレンズ越しにのぞき込むと、透明な八本足の生き物が、体をふりふりしながら懸命に歩いている。体長は0.5ミリくらいだから肉眼ではほとんどわからない。そんな小さな生き物が、身近なコケに潜んでいるのだ。
鈴木さんはあるとき大学の建物からコケを取ってきて顕微鏡で観察してみた。3日目にクマムシを発見し、飼ってみたい! という気持ちが俄然湧き上がってくる。でもクマムシは何を食べるのか? 鈴木さんは研究を開始し、ついには日本で初めてのクマムシ本まで出版する。この『クマムシ?!』(岩波書店)はベストセラーとなった。
これを読んだサイエンスライターの森山さんが、鈴木さんのもとを訪ねてさらにいろいろと聞き出したのが今回紹介する本だ。この本にクマムシの飼い方は書いていない。その代わり、「クマムシを飼いたい!」と強く思った鈴木さんがなぜクマムシにひかれ、クマムシ研究の何を面白いと感じているのか、つまり「クマムシを飼いたいと願うほどの楽しい研究者になるには」がいっぱい詰まっている。この本は森山さんと鈴木さんの会話で進んでゆくから、まるでぼくたち読者が本当に研究室を訪問して、午後いっぱいお話を聞いているような感じがする。
『クマムシ?!』執筆の裏話もたくさんある。古い文献をどうやって入手するか。クマムシは乾くと樽形に変形し、放射線にも耐えて生き返るといわれるけれど、そのときクマムシはいったい死んでいるのか生きているのか。何がまだわからないのかを語る鈴木さんからは、顕微鏡で生き物を観察することへのこだわりと愛がにじみ出ている。
「先生のお話を伺って、たぶん僕はこれから、コケを見るたびに『この中にクマムシがいるのかな?』とか思うようになる」と森山さんがつぶやき、鈴木さんがうれしそうに応じる。このとき読者のぼくたちもうれしくなる。これはそんな幸せの本だ。
(朝日中学生ウイークリー2008年9月21日号より) |
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世界一高い木 |
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リチャード・プレストン/著、渡会圭子/訳
日経BP社
税込2520円+税 |
おすすめする人 作家・瀬名秀明
ワイルド・ツリー――それはツリークライマーが誰も登ったことのない木のことだ。ツリークライマー?その通り、この本のカバージャケットに目を凝らしてほしい。ロープを使って信じられないほどの大木を登ってゆくクライマーの姿が見えるだろうか。コケを研究する若き植物学者のスティーヴはセコイアに魅せられ、樹冠と呼ばれる木の頂上に広がる不思議な世界を探索してゆく。彼はマリーという女性と出会い、巨木ゼウスの上でプロポーズし、木の上で結婚式を挙げる。一方フリーターのマイケルは、世界一高いセコイアを自分で発見し、登ることに人生のすべてを賭けてゆく。
この本はエボラウイルスの恐怖を描いた『ホット・ゾーン』の著者プレストンさんの新作だ。この本にウイルスは登場しない。しかしプレストンさんの筆致はいつもと同じく聡明な洞察と限りない好奇心にあふれている。そしてこの本はプレストンさん一家の物語でもある。皆さんも子どものころ、近所の木に登って遊んだことがあるかもしれない。プレストンさんの3人の子どもたち(ちょうど皆さんと同世代だ)も父に影響されてツリークライミングを始める。そしてロープを使って木から木へと移るスカイウオークを体得した13歳のローラは、クライミング史上最年少のツリークライマーとして公認される。一家は古代スコットランドの森へと旅して、250歳の巨木を登攀してゆくのだ。
鳥は木の上にいる人間を警戒しない。プレストンさんの目の前に鳥が降り立ち、すぐそばを群れが枝をかすめるように飛んでゆく。驚きの描写はそれだけではない。スティーヴたちが登ったセコイアの頂上には、なんと川にいるはずのプランクトンや、山椒魚や新種のミミズまですんでいたのだ。目の前に広がる新世界の瑞々しさと圧倒的な質感。読んでいてぞくぞくしてくる。
巨木は風がないときでも静かに揺れている。読むとその息吹が伝わってくる。夏にふさわしい傑作だ。
(朝日中学生ウイークリー2008年8月17日号より) |
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原寸どうぶつ図鑑―もしあの動物が隣にいたら |
| 上野動物園園長小宮輝之&飼育係の皆さん/著、宝島社 |
| おすすめする人 東大院生・みお
動物園よりよく見える
私は気分転換したくなるとよく動物園に行きたくなります。さくの中で暮らす動物たちは少し物悲しげですが、その動きやにおいや音は、私をすっかり元気にさせてくれます。でも最近はなかなか動物園に行く時間がとれなくなってきてしまいました。そんなときに活躍するのが、この本です。
この本は、文字通り原寸大の動物を紹介しています。もちろん本の大きさには限りがありますから、動物によっては目しか写っていなかったりします。でもそのおかげで、長いまつげや、肌の質感などがとてもリアルに実感できるのです。
写真に彩りを添えているのが、実際に動物園でその動物を担当している飼育係の人たちのコラムです。フラミンゴは「忍耐強く、嫌なことがあってもじっと我慢する」、オカピは「飼育していても心がいやされる〓癒し系〓の動物と言い切れる」。はたまた、「以前は飼育に失敗してしまったけれど、今度飼うチャンスがあればここに気をつければうまくいくはず」など、毎日真剣に動物と向き合っている人たちだからこそ書ける裏話が紹介されていて、心があたたかくなります。家に居ながらにして動物園に行った気分になれて、開くたびに新しい発見がある本です。 |
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生き物をめぐる4つの「なぜ」 |
| 長谷川眞理子、集英社新書 |
| おすすめする人 東大院生・べぇ
4つの視点で理解を深める
なぜ男と女がいてやがて恋をするのだろう? こう聞かれたとき、詩人はきっと様々な答えを出してくるでしょう。では科学者ならどう答えるのでしょうか?
科学はただ1つの正しい答えを出す、というイメージがあります。一面では確かにその通りです。ただし、正しい答えは1つかもしれませんが、答え方は様々です。
たとえば、進化生物学者は子孫を残し繁栄するために恋をするというでしょう。しかし、生理学者は思春期に分泌されるホルモンが恋をさせるというかもしれません。そしてこの2つはどちらも、ある視点から見た科学的に正しい答えなのです。
ノーベル賞を受賞した動物行動学者のティンバーゲンという人は、4つの視点から「なぜ」と問うことで生物学的な問題に対する理解が深まるといいました。
本書はこの4つの視点とはどのようなものかを説明した上で、鳥のさえずりや渡り、ホタルの発光やシカの角などの「なぞ」に対して4つの答え方を提示するものです。
この本にならい、身の回りの「なぜ」を別の視点から眺めてみると、きっと新しい発見があるでしょう。 |
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iPS細胞って、なんだろう |
| 古谷美央/著、中畑龍俊/監修、アイカム |
| おすすめする人 東大院生・みお
未来ひらくiPS細胞を知る
今日は私が最近書いた本を紹介します。私は大学院でES細胞(胚性幹細胞)という、様々な種類の細胞になる能力(万能性)をもつ細胞について研究していました。その万能性は、ドナー不足に悩まされてきた現代医療の切り札となり、産業の分野にも役立つと期待されています。
しかしES細胞を応用するには倫理的・技術的に大きな問題があり、世界中の研究者が、それらの問題をクリアする方法を模索していました。そんな中、「ES細胞の万能性は維持し、問題点は回避する」ことを目標に粘り強く独創的な研究を続けた山中伸弥教授が、iPS細胞(人工多能性幹細胞)作製に成功したのです。その報告は、多くの研究者に衝撃を、そして不治の病に苦しむ患者に生きる希望を与えました。
今も、実用化へ向けてiPS細胞をよりよく知るための研究が世界中で続けられています。私は、iPS細胞って何?という疑問に丁寧にわかりやすく答えるつもりで、この本を書きました。巻頭のカラー写真のような美しい組織をiPS細胞から作りだせる日は、私たちが生きている間に来るでしょうか。iPS細胞を今から正しく理解して、未来に思いをはせてみませんか。 |
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種子たちの知恵 |
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多田多恵子/著
NHK出版、1400円+税 |
おすすめする人 作家・瀬名秀明
ふしぎな植物がたくさん登場するSF小説に心をときめかせた人もいると思うが、この本を読んでいると、植物が本当に宇宙人のように見えてくるから面白い。
多くの植物は大地に根を生やして動かない。ではどうやって自分のタネを遠くへ届けるのか。プロペラの翼のかたちでくるくると風に吹かれて飛ぶユリノキ。毛虫のような姿になって舞うムクゲ。山火事が起きて初めてタネを落とし、灰の肥料で育つオーストラリアのブラシノキ。鳥や昆虫に運ばれるタネもある。クリスマス飾りの赤いナンテンの実は食べてみると苦いので、鳥は少し食べてすぐに飛び立ってしまう。これは少しずつ多くの鳥にタネを運んでもらうためのナンテンの作戦なのだ。
この本はタネをできるかぎり接写して、ふだんはじっくり見ることのないそのタネのかたちを手に取るように教えてくれる。それに著者の多田さんは、ときどき自分で実をかじって、味見の結果を教えてくれる。他にもドングリの仲間をずらりとページに並べて、帽子とタネのかたちを見せてくれる。紅茶ポットのようなかたちをした赤いムクロジの実は、水中でほぐすとサポニンという物質が出て、洗濯液に使えるという話もしてくれる。この液でシャボン玉もつくれるのだ。多田さんはこのように植物を身近な遊び仲間として紹介してゆく。小さかったころ、ドングリを拾って集め、数珠玉の実でビーズネックレスをつくったことを思い出して楽しくなるだろう。手にとって驚き、観察することは科学の第一歩なのだ。
これから植物と接する機会も多くなるはず。植物の本をもっと探してみよう。農学者の稲垣栄洋さんが書いた『キャベツにだって花が咲く』(光文社新書)は、いつも食べている野菜のふしぎを一望できる。昔のニンジンは紫色だったとか、スイートコーンはまいても芽は出ないがポップコーン用の粒なら大丈夫とか、こちらも楽しい話が満載だ。
(朝日中学生ウイークリー2008年6月15日号より) |
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いのち愛づる姫 |
| 中村桂子・山崎陽子/著、藤原書店 |
| おすすめする人 東大院生・かむかむ
毛虫を愛するお姫様
女子のみんなへ。虫は好きですか? 男子のみんなへ。虫が好きな女の子は好きですか?
この物語の主人公は生きもの好きの13歳の姫君。姫の一番のお気に入りは毛虫ですが、周りの者たちからは世間体が悪いからといつも注意されてばかり。ある時、姫は夢の中で様々な生きものに出会います。飛脚の姿をしたバクテリアや京女の姿をしたミドリムシ、ボルボックスやカイメン、クラゲなどなど。彼らと話をしていく中で、姫は生きもののすばらしさだけではなく、いのちの美しさについても気付いていきます。
この姫にはモデルがいます。平安時代に書かれた『堤中納言物語』の中の「蟲愛づる姫君」です。姫は周りの者に問いかけます。「毛虫をじっと見ていると、あなた方が美しいという蝶になるのです。花や蝶は美しいけれどはかない。生きる本質は毛虫の方にあり、時間をかけて見ているととても愛しくなる。これがわからないの」と。
対象を愛し、じっくり見るということはまさに科学そのものです。みんなもぜひ何かを愛し、じっくり観察してみてください。 |
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骨から見る生物の進化 |
| ジャン=バティスト・ド・パナフィユー、河出書房新社 |
| おすすめする人 東大院生・べぇ
骨から進化見える写真集
真っ黒な背景に動物の白い骨だけが写された風変わりな写真集。ぱらぱら眺めるだけで、クマの首が案外長いこと、ネズミの歯が見事な出歯であること、ウーリーモンキーの頭骨が人間の「どくろ」にそっくりなことなど様々な発見があります。
ただ眺めるだけではなく進化という視点に立つことで、さらにたくさんの発見に出合えます。
クジラの祖先はほ乳類だからクジラは魚の仲間ではない、といわれていますね。その証拠はクジラの骨にはっきりとあらわれています。クジラの骨はサケではなく、ウマの骨にそっくりなのです。
空を飛ぶコウモリもほ乳類の子孫であり、鳥の仲間ではありません。これもコウモリと鳥の骨を比べれば一目瞭然。鳥が腕で飛ぶのに対し、コウモリは指で(!)飛んでいるのです。
この写真集は美しい骨と同時に、生物の進化の歴史を僕たちに見せてくれます。8800円(税別)とやや値が張りますが、買って後悔することはないと保証します。 |
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アゲハ蝶の白地図 |
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五十嵐邁/著
世界文化社、2800円+税 |
おすすめする人 作家・瀬名秀明
「インドの王様」の別名を持つチョウ、テングアゲハ。あまりの美しさに息をのむほどだが、その生態は謎に包まれていた。チョウの収集を趣味とする五十嵐さんは、アゲハチョウの生態図鑑をつくるためになんとしてもこの幻のチョウを見つけたいと願い、仲間と共にインドへとたつ。ついにテングアゲハを発見するが、どうしても幼虫が見つからない。テングアゲハの生活史を解き明かすことは著者・五十嵐さんのライフワークとなり、ここから世界を股に掛けた冒険が始まる。
この本にはたくさんの学名が出てくるが、読み始めれば五十嵐さんのパワーに圧倒されて、ぐいぐい引き込まれてゆくはずだ。世界のチョウの白地図を少しでも自分色に染め上げようと、フィリピン、イラン、はてはブータンの山奥にまで出掛けてゆく。現地の車をチャーターして、セ氏50度のイラクを駆け抜ける。山全体がヒルの大群に埋もれている8月のインドでは、ついにテングアゲハの人工産卵に成功し、仲間へ喜びの電報を打つ。インドネシアの小島では乗っていた飛行機が墜落。機体が炎上しているのに七つ道具は決して忘れず、さらには緊迫した現場の前で記念撮影をぱちり。飛行機事故から帰還して英雄となった五十嵐さんは、日本人代表として政府の晩餐会にまで招待される。
なるほど、アマチュアの採集家たちはこんなふうに情熱を注いでいるのか、と目をみはる描写もたくさんある。チョウのいそうな場所を直感で見抜き、一撃で網の中にチョウを捕らえ、あるいは羽化する様子を何時間も地面にはいつくばって観察する。手の上にそっと乗るチョウの重みまで伝わってくる。なにしろ五十嵐さんの記憶力はすばらしくて、こうやって仲間たちで夜明けまで体験談を披露し合っているのかとうらやましくなった。
つねに旅行につきそい、夫の冒険を共に楽しむ奥様の人柄もすばらしい。五十嵐さんの冒険はまだまだ続くに違いない。
(朝日中学生ウイークリー 2008年3月16日号より) |
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ゾウの時間 ネズミの時間 |
| 本川達雄/著、中公新書 |
| おすすめする人 東大院生・みやび
僕が中学生の時、幼い頃から一緒だった犬の小太郎が死んでしまった。同い年だけれど、小太郎はもうおじいさんだった。ペットを飼ったことがあれば、同じような経験をしたことのある人も多いだろう。
この本では、動物のサイズと寿命、機敏さ、食べる量、体の形などの関係を紹介している。ちょこまか動く小さなネズミは寿命が短く、のろのろ動く大きなゾウは寿命が長い。けれども、哺乳類ならサイズによらず、一生の間にする鼓動の回数と呼吸の回数は等しい。心臓は20億回ドキンと打ち、呼吸は5億回スーハーとする。つまり、動物のサイズが違うと時間の流れる早さが違ってくる、というのだ。
僕たちは人間として生まれて、人間の時間の流れの中で生きている。そんな時間の流れの中で当たり前なことも、見方を変えれば当たり前ではなくなることがある。異なる価値観に気づき理解することから、新しい発見は生まれるのではないかと思う。 |
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細胞紳士録 |
| 藤田恒夫・牛木辰男/著、岩波新書 |
| おすすめする人 東大院生・みお
体を形作る美しい細胞
私たちの体は、「細胞」が集まってできています。顕微鏡で自分の手を見たことがありますか? よく見ると、規則正しい敷石状の模様が見えます。実はその一つ一つも「表皮細胞」とよばれる細胞です。
この本は、私たちを形作る細胞の「顔つき」や「仕事ぶり」を、電子顕微鏡で撮った美しい写真とともに紹介しています。細胞は本当に個性豊かで、見た目の美しさや緻密な並び方には圧倒されます。「ひげづらの四角顔」なんて、細胞の特徴や役割についても親しみやすい解説がついていて、お気に入りの細胞が見つかるかもしれません。
この本をめくれば、こんなにきれいな細胞が自分を作っていたのか!ときっと驚くでしょう。「自分」って何?と思う人もいるかもしれません。残念ながら、その答えはまだ誰も知らないのですけれど。 |
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迷惑な進化――病気の遺伝子はどこから来たのか |
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シャロン・モアレム、ジョナサン・プリンス/著、矢野真千子/訳
NHK出版、1800円+税 |
おすすめする人 作家・瀬名秀明
モアレム博士はアルツハイマー病と診断された祖父を助けたいと願って生物学の道へと進んだ。祖父はなぜか、血を抜くと元気になった。もしかするとアルツハイマー病は血中の鉄分の量と関係があるのでは? モアレムさんは、体の中に鉄分が蓄積してしまう珍しい遺伝性疾患があることを知って不思議に思う。なぜぼくたちは体によくない遺伝子を受け継いでいるんだろう? 迷惑な遺伝子も実は人類進化の過程で重要な意味を持っていたのでは?
本書はそんな疑問に駆られたモアレム博士が、科学ライターと組んで書き上げたメディカルミステリーツアーだ。カエルは血糖値を上げて体を凍りにくくさせることで寒波をしのぐ。ならば人の糖尿病もそんな適応進化の名残では? そんな大胆な仮説が展開されるかと思うと、DNAのメチル化という現象が病気や個性に深くかかわっている最新の研究成果も見事に解説されている。一卵性双生児の指紋が微妙に異なるのは、このメチル化のためなのだ。
ううむ、へえ〜と思わずつぶやきたくなる話題が次々と登場する。病気についてここまでポップに語れるのは著者ふたりの才能だろう。
さて、体内に鉄分がたまってしまう病気の遺伝子は、なんと3人にひとりの西ヨーロッパ人に受け継がれている。実はこの病気を持つ人は、免疫細胞には鉄を取り込ませないという性質も持っていて、ペスト菌に感染したとき有利になるのだ。ペスト菌は鉄を好むので、この病気の人が持つ免疫細胞には逆にやられてしまうのである。つまりこの病気のおかげで、中世のペスト大流行時代を生き延びることができたのかもしれない。いま人類にとって迷惑な遺伝子も、ある状況下ではその人の命を一日でも長くする大切な個性だったのだ。
これは謎と奇跡の話である、とモアレムさんたちは冒頭で述べている。確かにその通り。ぼくたちはどこから来てどこへ行くのか。それを語る遺伝子は、皮肉屋でお笑い好きなのだ。
(朝日中学生ウイークリー2007年11月18日号より) |
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またまたへんないきもの |
| 早川いくを/著、バジリコ |
| おすすめする人 東大院生・のじ
みなさんは「プラナリア」という生物を知っていますか? 形態はナメクジに似ていますが、かわいい目をしています。この生物の胴体を半分に切断すると、あたまからしっぽが、しっぽからあたまができて新たな2匹のプラナリアが誕生するのです。この不思議な生物の再生力に注目が集まり、傷ついた臓器や組織を再生させる研究に用いられています。
じつは、わたしたちが住んでいる地球にはなじみがないだけで奇妙な生物はたくさん確認されています。その一部を紹介しているのがこの本、『またまたへんないきもの』。水深550(メートル)で発見され、メタンを餌とするメタンアイスワーム。個体の全長が40(メートル)もあるクダクラゲ。変ないきものというよりも変な名前のスベスベマンジュウガニ。この本から地球に存在する生物の多様性が垣間見えるかもしれません。
ただ、人間ではない別のいきものから見たら、わたしたちも「へんないきもの」なのでしょうね。 |
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植物のこころ |
| 塚谷裕一、岩波新書 |
| おすすめする人 東大院生・べぇ
植物と僕の意外な一面
昔読んだ少女漫画に、いじめっ子が捨て猫にミルクをあげているのを偶然見かけた女の子がキュンとなってしまう、というシーンがありました。思いがけない一面を見つけることでものの見方が変わってしまうこと、ありませんか。僕は枝豆の意外な一面を発見してから植物の見方が大きく変わってしまいました。
それは、実験を終え、仲間や教授と一緒に軽くお酒を飲んでいたときのこと。つまんでいた枝豆のさやを、ふと光に透かして眺めてみたところ、さやにも葉っぱと同じように葉脈が走っていることを発見したのです。
植物の様々なカタチを読み解いた本『植物のこころ』によると、さやに限らず、花やトゲ、そしてハエトリグサのぱっくんちょさえも全部がもともとは葉っぱだというのです。
発見以来、僕は植物を見るたびに葉脈を確認するようになりましたが、こんな僕の一面をみてキュンとなる女の子は残念ながらいないようです。 |
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ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ |
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佐藤克文/著
光文社新書 840円+税 |
おすすめする人 作家・瀬名秀明
「データロガー」という小型のハイテク機器がある。ロガーとはログを取る機械、つまりデータを記録してくる装置のことで、本書の著者・佐藤さんはペンギンやカメなどにこれを取りつけて放す。そして彼らが海中でどのような生活をしているのかを調べているのだ。
著者略歴欄を見て驚いたのだが、佐藤さんはいま40歳。ぼくより年上だ。しかし佐藤さんが初めて書いたこの本は、瑞々しい感性に溢れている。懸命にデータロガーをつくり、調整と準備を重ね、そして初めて南極へ行く。そこでペンギンたちを目の当たりにして、彼らの生態をひとつずつ丹念に探ってゆく。水中では電波が届かないので無線通信は難しい。だから後でロガーは自分で回収しなくてはならない。南極の平原を埋め尽くすように立つペンギンの群れから、佐藤さんは自分のペンギンを探すのだ。もし寝坊してペンギンを逃したら、また数週間待たないといけない。佐藤さんは各国の研究者たちと協力しながら、新たな成果を掴み取ってゆく。
それは、本書の題名通り、ペンギンもクジラも水中では秒速2メートルで泳いでいるという意外な事実だった。他にも、恒温動物と思われたペンギンが水中では体温を下げて基礎代謝を減らし、吸い込んだ酸素の消費を抑えていることもわかった。どれもいままでの常識を覆す科学の発見だ。
ぼくたちはいままさに科学のとば口に立った見習い生のように、まるでシャクルトンの南極探検に志願した100年前のイギリス青年たちのように、佐藤さんの筆致と一緒に南極を進んでゆく。ハイテク装置も必要だが、何よりも大切なのは現場へ行くこと、工夫を凝らすこと、そして運を掴むことだ。
佐藤さんはまだ文章を書き慣れていない。全体の構成もぎこちない。でも佐藤さんの熱意がストレートに伝わってくる。読み進めるうち、「自分もこうやって科学を始められるんだ!」という発見の歓びが湧き起こる。さあ、最初の一歩を踏み出そう。
(朝日中学生ウイークリー 2007年9月16日号より) |
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オルカ |
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水口博也/著
ハヤカワ文庫 640円+税 |
おすすめする人 作家・瀬名秀明
アメリカ本土とアラスカの中間に位置するジョンストン海峡。ここで水口さんはテントに寝泊まりしながら、「キラーホエール」ともかつて呼ばれたシャチを観察し続けていた。冒頭からぼくたちは惹き込まれる。早朝の大気は冷たく、髪はぬれ、睫毛に水滴が絡む。島々と森と霧、そして海獣たちが噴き上げる潮、墨絵のような無彩色の世界。写真家でもある水口さんの文章は巧みだ。ぼくたちは水口さんに入り込み、そして水口さんの知識に触れながら、圧倒的な世界を目の当たりにすることになる。
本書はシャチの研究の歴史から、いま人類が直面している環境問題まで、巨大なテーマを扱っている。しかし何よりもいきいきしているのは、シャチを観察する水口さんと友人ジェフの日常、彼らの息づかい、そしてその目を通して描かれるシャチの生態そのものだ。
ある晩夏、水口さんたちはシャチの群れが怒濤のように進んでくる現場に立ち会う。年に1、2度、突然やって来る「スーパーポッドの日」だ。いくつかの家族に分かれて普段は生活しているシャチたちが、一斉に集合して祭りのように身を躍らせ合う。まるで異星にすむ知的生命体を見るようだ。この本は海の生物について書かれているのに、ぼくたちは読みながら宇宙の未知の生命と遭遇しているような興奮さえ覚える。
水中カメラを仕掛けようとした直前、水口さんの眼前にシャチが現れ戯れ合う。なすすべもなく水中カメラを握りしめたままシャチを見つめるその無念さと、そしてその時間を共有できたことの豊穣さ。カヤックに荷物を積み込むと舟が沈み、目の位置がほんの少し下がるだけで景色が一変し、心が自然に同化するという何気ない一文。近距離でシロナガスクジラが潜り、最後にその尾びれがこつんとカヤックにあたる、その感触。水口さんが転覆しないようおもんばかったクジラの知性。
1冊の本が冒険の扉を開き、世界を広げる。ネイチャーライティングの傑作だ。
(朝日中学生ウイークリー 2007年8月19日号より) |
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もやしもん |
| 石川雅之/著、講談社 |
| おすすめする人 東大院生・ようへい
微生物の営み、身の回りに
目に見えないくらい小さな微生物が僕らの周りに大勢いて、僕らを病気にするものがいれば、健康に保つものもいる。マンガ『もやしもん』の主人公は、そんな微生物たちが目に見える大学生。直接見える微生物の姿を通して、その産物である発酵食物の奥深い世界に、親しんでいく。
実は、僕らでも顕微鏡を使わずにこれらの微生物を見ることができる。寒天の粉を1.5%程度の分量で肉汁などのスープで煮て溶かす。それをシャーレなどの透明な容器で冷やして固まらせて、寒天培地を作る。この寒天培地を手で触ったり、納豆を置いたりして数日置いておこう。うまくいけば単一種の微生物の集団であるコロニーが表面に出来て、ブドウ球菌やら納豆菌やら様々な微生物を見ることができる。ただし、有害な微生物がいる可能性があるので直接触ったり、吸い込んだりしないように注意。身の回りで繰り広げられる微生物の営みを実感してほしい。 |
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生物と無生物のあいだ |
| 福岡伸一/著、講談社現代新書、777円 |
| おすすめする人 東大院生・みお
ミステリーみたいな生物本
この本には生物学の歴史や研究者たちが織り成すドラマが鮮やかに描かれています。例えば千円札に描かれている野口英世は、様々な病気を研究して成果を発表し続けました。でも今ではそのほとんどがうそだといわれています。彼は大ウソつきだったのでしょうか? いいえ、そこには彼が生きた時代ならではの理由があったのです。
教科書などを読んでいるだけでは伝わってこないけれど、生物学は、研究者の個性や情熱と、偶然や必然が重なり合って進展する、とてもスリリングな世界なのです!
後半では先端の分子生物学にも触れられます。この本を面白いと思える人こそが、生物学研究の次世代を担っていくのだと思います。我こそは!というあなたも、生物は覚えることばっかりで嫌いと思ってしまったあなたも、生物学にかかわる者だけが味わえるドキドキ感を体験してみてください。 |
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ゲノムサイエンス |
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榊佳之/著
講談社ブルーバックス 940円+税 |
おすすめする人 作家・瀬名秀明
科学との出合いはふしぎで運命的だ。1953年、ワトソンとクリックがDNAの二重らせん構造を発見して、遺伝子と分子生物学の時代が始まった。やがて遺伝子の解読が進むにつれて、ヒトゲノムの暗号すべてを読み取ろうという動きが出てくる。「生命」の本質を知りたいと願った榊佳之さんはその時代の流れを全身で受け止め、ヒトゲノム計画を日本で推進した。
本書は榊さんがこれまでの人生を振り返り、ヒトゲノムの研究の歴史とこれからの未来を語った講義録だ。榊さんは難しいDNAのしくみもきちんとかみ砕いて伝えてくれるから、生命科学に興味のある人ならきっとこの本のすべてを理解できるだろう。榊さんは好奇心旺盛な科学者でしかも情熱家だが、語り口はとてもジェントルなのだから。
これを読めば世界の科学者が共同で研究を進めることの意義だけでなく、お金もうけや国際外交の問題にどのように向き合ってゆくべきなのか、そして本当に人の役に立つ科学研究とは何なのかといったことにまで思いが及ぶはずだ。そして同時に、DNAの研究はこんなにすごいところまで来ているのかと驚くだろう。榊さんはあくまで穏やかに書きつづっているが、今後の5年、10年で起ころうとしていることは確実に世界のあり方を変えてゆく。
例えば1000ドル払えば誰でも自分のゲノム情報が得られて、疾患リスクがわかるようになる。いずれ全人類のゲノムが解読される時代が来るだろう。ヒトだけでなく周囲の環境にすむ虫や動植物たちのゲノムもわかり、ぼくたちはこの世界を大きな生命システムとして認識できるようになる。そんな時代を前にして、これからの科学者が挑戦できることはたくさんある。
すでにぼくらは次の大きな時代の潮流に入り込んでいるのだ。そう考えるとわくわくしてこないだろうか。読み終えて身体が火照っていたとしたら、あなたは榊さんの情熱を確かに受け継いで科学者になったのだ。
(朝日中学生ウイークリー 2007年7月15日号より) |
わたしも読みました!
東大院生・みお
皆さんはヒトゲノム計画という言葉を聞いたことがあるでしょうか?ヒトのゲノム、すなわちDNAで書かれた約30億文字分の遺伝情報をすべて解読しようというこの計画は、いくつもの国が協力する超巨大プロジェクトでした。著者の榊さんはこの計画の日本代表の一人となり、東京大学医科学研究所にゲノム解析センターを設置して、ダウン症の原因にもなる21番染色体をドイツのグループと共同で解読しました。センターを設置させてくれる機関がなかなかみつからず、プロジェクトを始めることすら危うかったり、アメリカに強敵が突然現れて計画そのものが変更になったり、最後に成果を発表するときになってもぎりぎりまでもめていたなど、実際に関わっていた人だからこそ書ける、ハラハラする裏話がたくさん出てきます。
本の後半では、ヒトゲノム計画が終了した今、何が起ころうとしているのかが紹介されます。赤ちゃんがお母さんと一緒に病院を出るとき、全ゲノム配列のデータを持たされるようになるかもしれません。それを使えば、その人にはどの薬が効いて、どれは効かなくて、何に注意すれば病気にならなくてすむかなどがわかるかもしれません。現在の「一般的に効果がある医療」が、「ひとりひとりに最適化された医療」=「オーダーメイド医療」に変わるときを私たちは目の当たりにすることができるでしょうか。
榊さんはとてもアツい人です。医科学研究所にいたとき、同じ研究所内にいる他の教授(本にも出てきます)と日本のゲノム研究の方向性をめぐって激しく対立し、その仲の悪さが、世界的に有名な科学雑誌「ネイチャー」に取り上げられてしまうほどでした。そんな人が、定年退職にあたってまとめ上げた、集大成ともいえる本です。DNAの二重らせん構造が解明された1953年にまだ小学5年生だった榊さんは、その13年後に大学院で研究者としての第一歩を踏み出します。それはまさに、DNAから生命のしくみを明らかにしようという研究がされはじめた時期でした。ゲノム研究の歴史そのものともいえる人の物語、ここには知っておくべきことがすべて書いてあります。 |
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捨てるな、うまいタネ |
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藤田雅矢/著
WAVE出版 1300円+税 |
おすすめする人 作家・瀬名秀明
「そのタネ、まいたら、芽が出ます。」
ふだんなにげなく食べているイチゴやミカンやカボチャ。みんなはタネをどうしている? ペッと吐き出して生ゴミに? ちょっと待って、いつも捨てているそのタネをまいてみよう、というのがこの本のメッセージだ。たった1粒のタネには、楽しいことがこんなにたくさんつまっている!
さっそく巻頭のカラーページをめくってみよう。キウイフルーツのタネまき日記がとても楽しい。たった2ミリのタネが17日後に発芽、ぐんぐん大きくなって個体差もついてくる。冬を越えて温かくなると芽吹いてきて、棒でも支えきれないくらいどんどんつるが伸びてゆく。まさにオビに書かれている通り、「こんなに楽しいこと、知らなかった!」と感動するはず。
環境のことには興味があるし、花も好きだけれど、ガーデニングってめんどくさそう……、とつい思ってしまいがちだけれど、植物と親しむ暮らしはこんなに簡単に始められる。学校で試してもいいし、家でウェブ観察日記をつけてもいい。アボカドのように実を収穫するまで10年かかるものもあるから、じっくり育ててつきあってみるのはどうだろう。
この本にはタネの取り出し方から保存法、タネのまき方までやさしく書かれているけれど、読み進めるうちに植物のしくみや日本の食糧事情もわかってくる。うどんや醤油も外国産の穀物に頼らざるを得ない自給率の低さや、便利な生活を追求して品種が減っている現実。丈夫な野菜や果物をつくるために品種改良がなされていて、それは大切なことだけれど、おいしい植物はやっぱり在来種。作物は生き物、「同じ親から生まれたのにカタチも性格もいろいろだわ」と実感し、成長に一喜一憂してみることが大切だ、とこの本はいう。
さあ、タネをまいてみよう。ひょっとしたらあなたは天性のグリーンフィンガー(緑や花を育てる能力のある人)かも?
(朝日中学生ウイークリー 2006年9月17日号より) |
わたしも読みました!
東大院生・みお
「今すぐタネがまきたくなる本」この本のオビには、そう書かれています。これが、誇張でもなんでもないのです! 本当に、読んでいるうちにタネがまきたくなってうずうずしてきてしまいます。皆さんも、タネが手元にある状態で読み始めることをおすすめします。
え、タネなんかうちにない? 困りましたね。そういうときは、果物や、タネがありそうな野菜を買ってきましょう。ぶどう、梨、リンゴ、柿、メロンにかぼちゃ、ピーマン。今まで捨てていたけれど、タネってどこにでもあるのです。
この本は、そういう、今まで食べたあと捨ててしまっていたタネを植えてみよう、という内容です。例として、キウイのタネを植えてみたときのことが、カラーページに写真入りで紹介されています。「タネをまいてから17日過ぎて、やっと芽を出しました。昨年まいたパイナップルは、2ヵ月半経って芽が出ましたので、パイナップルに比べると早い発芽です」なんて書いてあります。タネから芽が出るというのは、当たり前に思えますが、本当に大変な、奇跡的なことなんですね! それを自分の家のベランダで目撃できるのですから、こんなにすばらしいことはありません。
この本を読んだあなたが、今日食べた梨のタネを植えてみよう!と思い立ったら、そこには正解はありません。タネがいつ芽を出すか? 本当に芽を出してくれるのか? 何個植えたら何個生えてくるのか? 誰も知らないのです。そう思うだけで、なんだかドキドキしませんか。
ほら、タネをまきたくなったでしょう? この本には、どうやってタネをまいたらいいかはもちろん、発芽のしくみや、日本の食糧事情、タネにまつわる歴史など、ちょっと難しい問題も書かれていて、社会の勉強にもなります。この本を読む前と読んだあとでは、世界の見え方、野菜売り場の見え方がまったく変わることうけあいです。みなさんも、ぜひ読んでみてください。 |
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フィンチの嘴 |
| ジョナサン・ワイナー/著、ハヤカワ文庫 |
| おすすめする人 東大院生・あっきー
舞台は南米エクアドルの西、太平洋上に浮かぶガラパゴス諸島、そこに愛くるしい鳥・フィンチが生息している。だが、同じフィンチでも、島によって嘴の形や長さがまったく違う。なぜこのような違いが生まれたのか。そこには、現実に進行している「進化」が存在したのだ!
研究者・グラント夫妻が、「進化」の実態を徐々に解明していく姿には引き込まれる。「科学の研究」というと難しいイメージがあるが、研究をするグラント夫妻は、鳥と接して、とても楽しそうだ。そんな科学者の内側の顔にも迫れるのは魅力。1995年、ピュリッツァー賞受賞作。 |
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ダーウィンのミミズの研究 |
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新妻昭夫/文
杉田比呂美/絵
福音館書店 1300円+税 |
おすすめする人 作家・瀬名秀明
動物学者の新妻昭夫さんは、あるときダーウィンの書いたミミズの本を見つけた。進化論で有名なダーウィンがミミズの研究を始めたのは28歳のときで、本が出版されたのは亡くなる前年、72歳のときだ。40年以上も研究していたことになる! ミミズなんて夏休みの宿題みたいな研究に、なぜダーウィンは熱中したんだろう?
興味を持った新妻さんは、ダーウィンの仕事を調べ始める。この絵本『ダーウィンのミミズの研究』をめくれば、ダーウィンの熱意が新妻さんに乗り移ったことがわかるだろう。各ページに情報がびっしりつまっていて、とにかく読み応えがあるのだ。
ダーウィンはビーグル号で世界を航海して、島が何百万年もかけて沈むことや、島によって小鳥のくちばしの形が変わることを発見した。長い時間で地形が変わるなら、すんでいる生き物の形だって変わるかもしれない。そう考えてダーウィンは進化の研究をしながら自分の庭先にいるミミズも観察し続けた。牧草地がなだらかで土も細かいのはなぜだろう。ミミズが地表にフンを運んで地形を変化させるからじゃないか? 山の隆起はさすがに人間では観察できないけれど、ミミズが土をたがやす様子なら自分で調べられる。
そう考えたダーウィンは庭先に白亜の破片を撒いてじっと待った。そして29年後に土を掘り返す。破片の層は地表から17.5センチのところにあった。つまりミミズは1年で約6ミリの肥沃土をつくるのだ!
でもこの絵本がすごいのはここから先だ。「ダーウィンの庭を掘り返してみたい! 彼が撒いた白亜は、いまどこまで沈んでいるのだろう?」と疑問に駆られた新妻さんはイギリスへ行くのだ! さあ、その顛末は?
小さなミミズからこんなにもスリリングな科学の世界が広がるのだ。杉田比呂美さんのイラストも素敵で、ダーウィンの規則正しい毎日なんてクスクス笑いながらずっと眺めていたいほど。研究の醍醐味をこの一冊で体感しよう。お薦めの傑作。
(朝日中学生ウイークリー 2006年8月20日号より) |
わたしも読みました!
東大院生・うっちー
ダーウィンはなぜ「進化論」という大胆な説を思いつくに至ったのでしょうか? 「ビーグル号に乗って、ガラパゴス諸島に行くことができたから」。それもひとつの理由でしょう。でも、この本を読むと、船に乗る機会に恵まれたことだけでなく、ダーウィンの熱意や几帳面さ、ものすごい気の長さがあったからこそ、進化論が生まれたんだと思えてきます。研究熱心すぎて家族にあきれられている姿は、偉大な科学者というよりは変なおじいさんですけれどね。
さて、うんとマジメな読み方をすれば、この本は科学的な「検証」の物語です。難しそう? いえいえ、絵本ですから! それに、ミミズと土の関係を調べる方法は、たとえばミミズのふんを一年間拾い続けるなど、時間はかかるけれど至ってシンプルです。研究ってこういう風にやるんだ!ってことがわかったら、科学や科学者がもっと身近に感じられるかもしれません。気軽に、みんなに読んでほしい本です。 |
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雄と雌の数をめぐる不思議 |
| 長谷川眞理子/著、中公文庫 |
| おすすめする人 東大院生・かむかむ
あなたのクラスに男子は何人いますか? 女子は? 「男子だけ」、「女子だけ」なんて人もいるかもしれません。では、あなたの住んでいる街は、日本は、世界はどうでしょう? 男と女の数はほとんど同じですね。でも実は、雄と雌の数が異なる生き物はたくさんいます。ワニは、卵が孵化する温度によって雄になったり雌になったりします。スコットランドのある島に住むシカは、グループ内での母親の順位が高いと雄を、低いと雌を産みます。そこには動物たちの様々な作戦が隠されているのです。
みんなと同じ頃に初めて読んだちょっと難しめの本です。高校生や大学生も知らないことを知っているとちょっとうれしくなります。 |