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吉川惣司、矢島道子/著
朝日新聞社、1400円+税 |
おすすめする人 作家・瀬名秀明
これは13歳にして全長5・5メートルのイクチオサウルスの完全骨格の化石を見つけたメアリー・アニングというひとりの女性の物語だ。メアリーはイギリス南部の美しい町ライムに生まれ育ち、海岸沿いの白亜の岩肌からその後もすばらしい化石を次々と採取して、当時の考古学者たちに提供していった。まだダーウィンは『種の起源』を発表していないが、少しずつ人々の「進化」という考え方が受け入れられていった時代だ。メアリーは学者ではなく化石を売って商売する一般人で、しかも女性だったから、学者としての地位は認められなかった。それでもメアリーの化石で多くの学者が重要な研究を進めていった。いったい彼女はどんな女性だったのか?
この本は、いわば幻のアニメ映画の解説本だ。著者のひとり吉川さんは『ルパン三世』などの脚本家・監督。彼は「メアリーの話をアニメにできないか?」と思い立ち、どんどんのめり込んでゆく。そして高校教諭の矢島さんと出会い、ふたりでメアリーに関する文献をくまなく調べてゆく。結果的にメアリーのアニメは製作されなかったが、まさに本書には良質な長編アニメを見たあと余韻に浸るような充実感がある。
『ハウルの動く城』でも何でもいい、あなたのお気に入りのアニメを思い出し、その絵でメアリーを夢想してみよう。読みながらあなたのメアリーが動き出してくるはずだ。本書では実在の文献に描かれたメアリー像を補完するかたちで、吉川さんたちが彼女の言葉やふるまいを想像して加えている。そのシーンがいきいきと頭に浮かんでくる。
クライマックスはメアリーがロンドンへ大旅行し、博物館で多くの化石や剥製を見学するシーンだろう。しかしその後もメアリーは学者あての手紙に聡明な知性を見せ、恋を語る。そして最後までひとりの人間としてプライドを持ち続ける。
いつかぜひ、皆さんの中から本書をアニメ化する人が出てきてほしい。
(朝日中学生ウイークリー2008年1月20日号から)
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