エジソン 理系の想像力
名和小太郎/著
みすず書房
1500円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明

 エジソンというと、1%のひらめきと99%の努力だとか、有名な逸話はいろいろあるが、どうも全体像のつかめない人だ。特許に固執して金儲けばかりしていた人、と悪くいわれることもある。

 この本を読んで、エジソンに対する印象が変わった。エジソンの真の想像力とは、たくさんの発明をまとめあげて、社会へつなげてゆくことの想像力だったのだ、とこの本はいう。ものをつくるのが好きな人なら誰でも、自分の発明で世の中をよくしたいと夢を描くだろう。でも白熱灯ひとつを発明したからといって、すぐに社会が変わるわけではない。ではどうすればいいんだろう。ものづくりのシステムと、社会のシステムを考え抜く必要がある。

 この本は「理想の教室」というシリーズの1冊だ。エジソンの発明スケッチや当時の文献をたくさん紹介しながら、エジソンが実際には何をやろうとしていたのか、何に成功して何に挫折したのかを、読者と一緒に考えてゆく。白熱灯を売るためには街や家庭への配電システムをつくらなければならない。ではそのシステムがよいか悪いかどうやって判断する? エジソンは円筒型の蓄音機をつくったが、円盤型(レコード)に負けた。なぜエジソンは円筒型にこだわったのか。

 どんなにいい技術でも社会に受け入れられないと普及しない。映写機を発明したエジソンはたくさんの特許を取って、自分たちの規格を使わない業者を閉め出そうとした。発明をシステムとして売るためには大切なことだったかもしれない。でもそれは差別を生み出す。

 ぼくたちはエジソンの成功と失敗を超えることができるだろうか。理系の想像力は、社会をどのように変えてゆけるのか。平易な言葉で書かれているのに、この本の問いかけは重い。でも本当にものづくりが好きな人なら、きっとこの本から強いメッセージを受け取るだろう。もしきみが技術者志望なら、大人になってから読み返してみてほしい。大切な一冊になるはずだ。

(朝日中学生ウイークリー 2006年11月19日号より)

わたしも読みました!

東大院生・かむかむ
 小学校1年生のときに初めて読んだ伝記は『エジソン』でした。蓄音機、白熱灯、電話、映写機など数々の発明を生み出した発明王エジソン。僕もエジソンみたいな発明家になることを夢見ていました。

 けれども、この本ではエジソンは必ずしもヒーローとして描かれてはいません。この本はエジソンの伝記ではないのです。エジソンの成功や失敗を具体例として扱った、「システム工学入門」なのです。

 システム工学、なんだか難しい言葉です。システムとは、ものごとをバラバラに考えるのではなく、全体として考えること。工学とは、科学技術を利用してモノをつくることです。つまり、システム工学とは、つくったものが社会全体の中でどのように使われるのかということまで考えながらモノをつくる、ということになります。

 エジソンが白熱灯をつくったことはとても有名ですが、白熱灯を使うには電気が必要です。エジソンは電気を効率よく送る方法まで考え、その方法に合う白熱灯をつくりました。実際に社会に普及させることまで考えて、白熱灯をつくったわけです。しかし、残念なことに直流用でした。その後交流が一般的になることまでは想像できなかったのです。

 この本では、著者が先生、読者が生徒となって教室で先生が話すようにエジソンについて語ってくれます。時間割は3回の授業と授業前のオリエンテーション、そして授業後の質問時間です。質問時間には「なぜエジソンか?」、「社会の中における技術者の責任は?」といった著者の熱い想いが込められているので、オリエンテーションを読んだあとは、授業に入る前にまず質問時間のページを読んでみると良いかもしれません。

 エジソンを超える想像力を得るために、社会における技術の役割を考えるために、「21世紀のエジソン」となるあなたにぜひ読んでもらいたい本です。




ロボ鉄
ロボテツ取材班/編
中野栄二/監修
バジリコ 1800円+税
 おすすめする人 作家・瀬名秀明

 毎年この季節に仙台で開催される「知能ロボットコンテスト」を知っているだろうか。ぼくは小説の取材で多くのロボットを見たけれど、この知能ロボコンは会場の熱気とロボットの質の高さで、全国でもトップレベルの面白さなのだ。
散らばったボールや空き缶を分別回収してゴミ箱に入れるという競技だが、NHKの高専ロボコンと違って、スタートしたら人間はロボットを操縦してはいけない。すべてロボット自身が考えて、行動しなければならない。技術者のお父さんが子供と一緒にレゴのロボットで出場するかと思えば、本職の研究者も自作ロボットで挑む。
書店で『ロボ鉄』という本を手にして、表紙の女の子が福島高専の生徒だとわかって、ぼくは驚いてしまった。数年前の知能ロボコンで、ボールを次々と吸い上げて掃除するロボットでいきなり優勝したチームの後輩の子じゃないか!
この『ロボ鉄』は、これからロボットの鉄人になろうとする人たちへの、熱いエールだ。いま各地のロボコンで活躍している高校生や大学生が次々と登場して、アイデア帳の中身や設計図を見せてくれる。これを眺めたら誰だってロボットをつくりたくなるだろう。
なかでも福島高専の女子生徒たちの言葉は素敵だ。勉強とロボットの両立で大切なのは、「凝る」ことではなく「簡単なものを確実に仕上げる」こと。身近な素材を上手にいかしながら、もっと面白いロボットにしたいと工夫を重ねる。
千葉工業大学でロボットを開発している古田貴之さんの紹介記事もいい。古田さんは中2のとき、病気で下半身が麻痺してしまった。その後奇跡的に恢復(かいふく)するが、いまも当時を思い出し、人の役に立つ技術を生み出したいと願っている。
本当にぼくたちの役に立つ、豊かなロボットとは何だろう。ロボットをつくることでその手掛かりがつかめる。ロボットの鉄人とは、きっと知恵と勇気と優しさを併せ持つ人なんだ。

(朝日中学生ウイークリー 2006年6月18日号より)

わたしも読みました!

東大院生・あっきー
 偉大な人の成功談を耳にすると、「すごいな。自分もこうして頑張らないと」と感じる。しかし実際に同じようにやってみても、なかなか上手くいくものではない。成功にいろどられた話の裏には、その何十倍もの失敗と挫折が隠されているからだ。
成功とは、数々の失敗の上に成り立っている。言い換えれば、何度失敗しようとも、くじけずに頑張ることが成功の秘訣なのかもしれない。

 本作にも、そんな成功者がでてくる。それがロボット作りの成功者・鉄人たる「ロボ鉄」だ。
趣味が高じて、研究を経てロボット研究の所長になった人や、ユニークなロボットを作り上げてロボコンで優秀な成績を収めた面々。しかし誰しも、スムーズに「ロボ鉄」になったわけではない。そこにはたくさんの失敗と挫折があるのだ。彼・彼女らは、どのようにしてその困難に打ち勝ってきたのか。本書にはその苦悩が生々しく描かれているので、とても親近感がわいてくる。
監修の中野氏も言うように「『できない』という事実を知ることで初めて(中略)目標が見えてくる」のだ。自分にはできない、と認めるのはつらい。だがそれを直視することで、目の前に立ちはだかる壁は山となり、乗り越えていけるようになる。
そうしてできあがったロボットは、なんと心を楽しませてくれることか。サッカー、相撲、大道芸……、写真を目の前にするだけでも、思わずその勇姿が頭の中に浮かんでくる。

 ロボ鉄たちの「目標」は、ロボコンだけにとどまらない。その得意分野を生かして、社会に貢献できないか、危険なところでの災害救助や、医療・介護にも目を向ける。車椅子の人も気軽にパレードに行けるようにと、ダンスが踊れる車椅子まで開発されている。この先も、さまざまなロボットが開発されていくに違いない。
初めは機械いじりから始まった興味が、ロボットを通してどこまで飛んでいくのだろうか。ロボ鉄の活躍とともに、今後のロボットの活躍を思わず夢見てしまうような一作だ。




キューブサット物語 超小型手作り衛星、宇宙へ
川島レイ/著、エクスナレッジ

 おすすめする人 東大院生なう

 お金がない、技術もない、知識も設備もない。そんな学生たちが、あらゆる先端技術の結晶とも言われる人工衛星の開発・打上げを成功させた。『キューブサット物語』は、この無謀な挑戦をやり抜いた東大・東工大の学生たちの3年半の記録である。

 「キューブサット」とは、「立方体衛星」を意味する単語であり、学生たちが作りあげた衛星の名前でもある。1999年にハワイの学会で提案され、その後学生に数々の試練を与える存在となる。通信機が動かなくなったり、太陽電池が割れたり、学生の顔を青ざめさせるようなトラブルは何度も起きた。衛星だけが問題ならまだよい。次から次へと順延される打ち上げに怒りを感じたり、実験帰りに居眠り運転から事故を起こしかけたり、病気になって死にそうになる学生もいた。しかし、チームワークと情熱と、周りの協力にも助けられながら、なんとか2003年に衛星打上げを成し遂げる。

 教科書で勉強し、紙面で設計ができても、「ものづくり」は実現できない。そんな「ものづくり」の困難さ、つらさ、楽しさ、喜びを教えてくれるのが、この『キューブサット物語』である。そしてその主人公は、特別な技術者でも研究者でもない、普通の学生なのである。読者に近い存在でもある「学生」が、宇宙のロマンを掴み取ることができることに、みなさんはきっと元気をもらうだろう。

 実は、この紹介文を書いている私「東京大学・なう」自身も、この無謀な挑戦の参加者である。運よく命の危険にさらされることはなく、北極圏ロシアのミサイル軍事基地で衛星打上げに携わるなど、普通では考えられない経験を何度もした。そして、宇宙とは決して夢物語ではないことも実感している。この本を通して、「宇宙は意外と身近にある」、そんな思いをみなさんに味わってほしい。




映画「遠い空の向こうに OCTOBER SKY」
監督 ジョー・ジョンストン ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン

 おすすめする人 東大院生うっちぃ

 1957年10月、人類初の人工衛星「スプートニク」の打ち上げが成功する。そのスプートニクが光の点となって空を駆け抜けていく姿を見て、「ロケットを作る!」と一念発起した田舎の高校生・ホーマーがこの物語の主人公だ。何の知識もないまま花火の火薬を元に作ったロケット1号機は大爆発、庭の柵を壊してしまい母親に怒られる。友達3人を巻き込んで本格的に研究を始めるが、果たして手作りロケットは飛ぶのだろうか……?

 半世紀も昔の話だから、もしかしたら皆さんは「昔は科学が発達していないぶん夢があってよかったね」と思ってしまうかもしれない。だが、ホーマーたちが「ロケットを作る」という目標に向かって突き進んだ理由は、彼らの日常に「夢がなかった」からだ。炭坑の町に生まれた彼らは、高校を出たら炭坑で働くのが普通だった。その炭坑も閉鎖が近く、大人たちは日々の暮らしのことで精一杯でロケットなんかに興味はない。ホーマーも厳格な父親に「お前はなにもわかっちゃいない」と叱られ実験を禁止されてしまうなど、実に厳しい現実が盛りだくさんなのだ。

 だから、ロケットや宇宙に興味がない人にも、この映画はおすすめだ。夢を持つきっかけはささいなことでもいい。夢の実現には失敗や対立がつきものだ。夢を追いかける強い気持ちがあれば、きっと困難にも打ち勝てる……そんなたくさんの勇気をもらえるはずだ。

 この映画は実話が元になっていて、映画のラストにはホーマーと仲間たちの今の姿も映し出される。映画が気に入ったら原作本「ロケットボーイズ」もどうぞ。

 

 

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