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ロバート・P・クリース/著
青木薫/訳
日経BP社、2000円+税 |
おすすめする人 作家・瀬名秀明
「美しい」って、どういうことだろう。ぼくたちは芸術作品を見て胸をうたれ、美しいと感じることがある。では美しい科学実験とはどういうものだろう。それは骨董品の善し悪しを見抜くようなもので、ごく少数の目利きでないとわからないものだろうか。
そうではない。きっときみにも科学実験の美しさを感じ取れる。この本は世界中から寄せられた意見を元に10の物理学実験を選び出し、それぞれの本当の美しさを解き明かす。影の長さを測定することで地球の外周を4万キロメートルと概算したエラトステネス、ピサの斜塔の伝説になったガリレオの研究、プリズムの組み合わせで光の本質を捉えたニュートン、フーコーの振り子。あちこちで見知ったはずの実験に、これほど面白い裏話があったのかと驚くに違いない。それほど著者クリースさんの筆致は見事なのだ。実験現場にいるような臨場感があり、研究者たちの人生の歓びと悲哀も伝わってきて、本書自体が比類なき美しさをたたえている。
最後に登場する10番目の実験は、量子の世界で生じる想像を超えた現象を見せつける二重スリットの実験だ。白黒の写真に縦縞の干渉パターンが浮かび上がるだけだが、その静けさは本当に美しい。クリースさんはこの実験についての映画も紹介していて、ウェブでも視聴できるのでぜひ観てほしい。日本の量子物理学者、外村彰先生がつくった映画もある。この映画を語るときのクリースさんは、決して声高には感動を叫ばない。涙も共感も強要しない。それなのにクリースさんの魂が熱く震えているのがわかるのだ。
各章の合間に挟まれたエッセーもいい。科学の精神とその奥深さを、これほど気高く語れる人が他に何人いるだろう。
最後にクリースさんは問う。「もし実験に美があるなら、それは美にとって何を意味するのだろうか?」──本書を読み終えるとき、きみは「美しさ」の本当の意味を知るだろう。そして世界が変わるはずだ。
(朝日中学生ウイークリー 2006年12月17日号より)
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