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第5回「朝日学生新聞社児童文学賞」 

 

久米絵美里さんの「言葉屋」に

 

 

 第5回「朝日学生新聞社児童文学賞」の最終選考会が2日、東京・築地の朝日学生新聞社であり、久米絵美里さん(26歳)の「言葉屋」に決まりました。小学生部門の朝日小学生新聞賞に選ばれたのは、染谷治仁くん(5年)の「ふまなかった柿」。3月下旬に朝小で全文を掲載します。「言葉屋」は夏に朝小で連載される予定で、その後、単行本として出版されます。
 児童文学賞には25点、朝日小学生新聞賞には20点が寄せられました。
「言葉屋」は、言葉をつかう勇気とつかわない勇気を提供するお店「言葉屋」の家に生まれた女の子の物語。作者の久米さんは翻訳を勉強している主婦です。「ふまなかった柿」は、マラソンが苦手な男の子とお母さんの交流をえがいた作品です。

 表彰式は23日、東京・学士会館で行われます。。

 

選考会のようす=東京・築地の朝日学生新聞社で渡辺英明撮影

 


朝日学生新聞社児童文学賞最終選考から
「言葉屋」言葉の大切さ伝える
小学生部門 染谷治仁くん「ふまなかった柿」

 

 朝日学生新聞社児童文学賞の最終選考は、子ども書評委員4人をふくむ9人で行われました。児童文学賞の「言葉屋」は最後まで別の作品と票が割れましたが、決め手となったのは「言葉の大切さ」というテーマの良さでした。

 

 児童文学賞の最終候補作は5作品。各委員が1番目と2番目に良いと思うものをあげ、理由を発表していきました。 最初の投票では4人が、夏休みをおばあちゃんの田舎で過ごす男の子をえがいた「夏休みの48」を、3人が東京の電気街・秋葉原を舞台とした「AKIBABOY―ぼくと狐と子天狗と」を1番目におしました。 「夏休みの48」には「主人公が成長していくところがいい」という評価の一方で、「作中に出てくる言葉が少し乱暴で、読者がまねするおそれがある」という声も。「AKIBABOY」には「本が苦手な子も読めそう」「実際の事件がえがかれていてショックを受ける人もいるのでは」などの意見がありました。 「言葉屋」をおす人たちからは「人物描写がていねい」「言葉を売る店という設定がユニーク」との声が上がりました。 2回目の投票では「言葉屋」が5票、「AKIBABOY」が4票。最後まで割れましたが、「子どもたちに言葉の大切さを伝えるテーマが抜群に良い」との理由で、「言葉屋」に決まりました。 小学生部門で最終審査に残ったのは4作品。9人中7人が「ふまなかった柿」を推薦しました。「マラソンは多くの小学生が体験するから共感できる」「柿を足にぬると速く走れる、という自由な発想がすばらしい」と評価され、決定しました。

 

言葉は強い力をもっている

 

 「言葉屋」の作者 久米絵美里さん(東京都・26歳) 受賞が決まったときは、支えてきてくれた人たちに恩返しができると思い、うれしくて泣きました。
 子どものころから、物語を書くか呼吸をするか、というくらいお話をつくることが好きでした。もちろん、読書も大好き。『アルジャーノンに花束を』や『若草物語』などを読んで育ちました。読書のおかげで、「言葉の魅力」に親しんでこられたのだと思います。
 いまの社会では、インターネットでの悪口や、人を傷つける言葉があふれています。「言葉屋」は、読者のみなさんと言葉の魅力とこわさを改めて考えたいと思ってつくりました。言葉は自分が思っているよりも強い力をもっています。言葉一つ一つが相手にどう伝わるかを、作品を通じて考えてもらえたらうれしいです。
 これからも、言葉の大切さをあつかう物語を書いていくと同時に、いろいろな世界観を伝えられるよう海外作品の翻訳もしていきたいです。

 

ものにたよらず自分の力で

 

 「ふまなかった柿」の作者 染谷治仁くん(千葉県・5年) 自分でいいのかな、とびっくりしました。作品に出てくる「足の裏に柿をぬると速く走れる」というアイデアは、登下校中に見る柿の木からヒントをもらいました。マラソンが苦手な主人公ハルヒトのモデルは自分です。
 ぼくは文章を書くのが好きではありませんでした。3年生のころから作文の塾に通い、書く楽しさがわかってきました。
 作品を通して伝えたいのは、ものにたよらないで自分の力でやり通すといいよ、ということ。ぼくも鉄棒の逆上がりを、補助なしで練習をがんばってできたときに、うれしかったです。
 作中で主人公にごはんをつくるお母さんも、母がモデルです。性格は小説と少しちがうけれど、ごはんのことをよく考えてくれます。つくってくれる料理では、運動会のときだけふるまってくれる豚肉に揚げものやポテトフライが好きです。

 

朝小で掲載、楽しみにして

 

 選考委員長 沖浩・朝日学生新聞社社長 児童文学賞は大接戦の末に「言葉屋」が選ばれました。言葉はときには人を幸せにし、ときには人を傷つけます。言葉の大切さを私たちは忘れていませんか。言葉屋って何なの? 不思議な気持ちで読んでいくうちに、言葉の大切さに気づかせてくれる作品です。
 朝日小学生新聞賞の「ふまなかった柿」では、主人公の男の子が苦手なマラソンに挑戦します。不安だった男の子の気持ちが変わっていく様子やお母さんとの会話がとても上手に書かれています。
 両作品とも朝小で掲載されるのを、楽しみにしていてください。

 

 

子ども書評委員4人も審査
社外選考委員の講評

 

尾形綾香さん(東京都・5年) 

「自分たちの意見や考え方で1人の作家をデビューさせる」という責任のある作業だったので、緊張しました。「言葉屋」は、日常使っている「言葉」について考えさせられる作品。連載を楽しみにしています。

斎藤はなさん(埼玉県・5年)

最終候補作品は、どれもとてもおもしろかったです。選考委員は最初はちがう作品をおしていましたが、話し合いで全員の合意ができていきました。審査の裏側を知ることができて、貴重な体験となりました。「言葉屋」は人物描写が細かく、新しい発見がたくさんあります。 

竹内理人くん(静岡県・5年)

読書好きの人たちと共通の作品についてじっくり話し合えて、良かったです。大人と交ざって話し合うことはめったにないので、新鮮で、気持ちがはずみました。1票の差で、自分がおした作品が選ばれなかったことはくやしかったです。

渡辺央祐くん(東京都・3年)

何か月もかけてみんなが大切に書いた作品だから、ぼくもていねいに読もうと思いました。「ふまなかった柿」は登場人物が、クラスの友だちと重なって楽しく読めます。マラソンがきらいな子が勇気をもてる作品だと思います。

庭田瑞穂先生(青森県西目屋村西目屋小)

作品のレベルが去年よりも上がっているように感じられ、選ぶのが難しかったです。「言葉屋」は言葉で伝えることの大切さを深く考えさせられる、いまの子どもたちに必要な作品です。子ども書評委員のみなさんは、この作品のように言葉を大事にしていました。それができるのは、日々の読書があるからだと思います。

牧岡優美子先生(東京都北区滝野川第七小)

一つ一つの言葉を大切に、という「言葉屋」。毎年、子どもたちに力強いメッセージを伝える作品が選ばれていますが、「今年はこれしかない」と感じました。「ふまなかった柿」は主人公とお母さんのやりとりなど、子どもならではの視点がとても良かったです。

 

                                     (朝日小学生新聞2014年3月6日付)


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