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猪瀬都知事が「5千万円受領問題」で辞職

 

 


渡した徳洲会内部で仲間割れ、情報が外に

 

 東京都知事だった猪瀬直樹さんが「徳洲会」という医療法人の人から現金5千万円を受け取っていた問題は、昨年11月22日に朝日新聞の報道で発覚しました。それまで猪瀬さんはこの受け取りを公開せずに黙っていました。批判を受け12月24日に知事を辞めました。

 

 

 

 

 猪瀬知事が辞めたけど、何が問題だったの?
 副知事だった2012年11月20日に、徳洲会の理事長だった徳田虎雄氏の次男の徳田毅衆院議員から現金5千万円を受け取った。なのに、それをちゃんと公表していなかった。


 公表しないと何か問題があるの?
 猪瀬知事の前任者の石原慎太郎さんはその直前の10月31日に知事を辞めて、12月16日に、後任の知事を選ぶための選挙が行われることになった。猪瀬さんは石原さんの下で副知事をやっていて、11月21日に、その選挙に立候補すると表明した。5千万円がもしその選挙運動に関する借り入れや寄付なんだとしたら、選挙運動費用収支報告書に書いて公表しなければならない。一方、政治資金だったのなら、政治資金収支報告書に書いて公表しなければならない。これらの義務をおこたったら、公職選挙法や政治資金規正法に違反する犯罪として処罰されることもある。


 それは大変だ。
 うん。朝日新聞に記事が載った11月22日に猪瀬さんは「資金提供という形で応援してもらうことになった」とか「自分の預金の範囲で選挙運動ができました。従いまして、まあ、個人でお借りしたものを、返却するつもりでおりました」と言った。つまり、選挙運動のために5千万円を借りたことを認めていた。ところが、その後、「生活の不安があったのでお借りした」と説明を変えた。


 よく分からないね。
 個人の借り入れだったということなら、それはそれで資産等報告書に書いて公表しなければならない。これについては罰則はないけど、「政治倫理の確立のため」ということで20年近く前から都知事には義務づけられている。「個人的な借り入れ」という説明が真実だとすれば、これに違反したことになる。


 隠していたのもよくないけど、そもそも5千万円を受け取るのもよくないような気がする。
 徳洲会は全国でたくさんの病院を経営していて、東京都内にもその一部があり、東京都の監督を受け、東京都の補助金を受け取っている。つまり、東京都の知事や副知事にとって、徳洲会は利害関係者なんだ。それに東電病院の問題もある。


 原発事故を起こした東京電力?
 うん。都内に東京電力の病院があって、やはり東京都の監督を受けている。東京都は以前は東京電力の筆頭株主でもあった。猪瀬さんはその立場を使って12年6月、東電に病院の売却を迫った。徳洲会はその東電病院を買おうと考えていた。


 へー。
 猪瀬さんの話では、金融機関でもノンバンクでもない徳洲会から無担保、無利子、返済期限なしで5千万円を借りたそうだ。ふつうの人なら、およそあり得ない話だ。


 なんでそんなことしたんだろう?
 ばれないと思ったんだろうねぇ。徳洲会の内部でここまで深刻な仲間割れがあると思っていなかったんだろう。


 仲間割れ?
 徳洲会の中枢にいた人たちがお互いにけんかをしている。その結果、ふつうなら表に出ないような内部の情報が外に漏れてきている。東京地検特捜部が13年9月に家宅捜索をしてたくさんの資料を押収し、徳洲会の元幹部らを逮捕している。そんな中で、猪瀬さんのほかにも、徳洲会からお金を受け取った政治家の名前が取り沙汰されている。

 

 

朝日新聞編集委員 奥山俊宏

1966年生まれ。89年から 朝日新聞記者。東京社会 部などを経て2006年から 特別報道チーム。ネット 新聞「Asahi Judiciary」 の編集も担当。著書に『ル ポ東京電力原発危機1 カ月』(朝日新聞出版)な ど。

 

2014年1月5日

 

 

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