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●国外犯処罰って?●

福田 直之記者(朝日新聞浜松支局)
 
ジャン

 日本で起きた死亡ひきにげ事件の容疑者の裁判がブラジルで始まったね。

福田 記者

 容疑者は三十一歳の日系ブラジル人。一九九九年に静岡県浜松市で、当時十六歳の女子高校生を死亡させる事故を起こした後、ブラジルににげていたから、ブラジルの法律でさばいてもらうよう、日本が要請していたんだ。

ケン

 日本につれてきて裁判すればいいのに。

福田 記者

 それができないから「国外犯処罰」というブラジルの法律にある規定を使ったんだ。

ポン

 むずかしいことばだね。どういう意味なの?

日本で事件起こし逃げた容疑者を国外の法律で裁く

死亡ひき逃げ犯の裁判
ブラジルではじまる

 


 

初公判にのぞむ、静岡の死亡ひきにげ事件の容疑者=手前左。国外犯処罰規定を使った、ブラジルでの初めての裁判です=今月7日、ブラジル・サンパウロで

 ――国外で罪をおかした人を、その人がいまいる国の法律でさばくことができるという規定。たとえばブラジル人が日本で罪をおかして、ブラジルににげたとしても、ブラジルでも罪になる場合はブラジルの法律でさばけるんだ。日本の刑法にも同じような規定があるよ。今回の死亡ひきにげ事件は、日本から初めてブラジルにたのんだ国外犯処罰なんだよ。

 ジャン 「代理処罰」というものかしら? よく聞くわ。

 ――「代理処罰」は正しいことばじゃない。裁判のきっかけは、日本からの要請や資料の送付だけど、あくまでも犯人がいまいる外国、今回の場合ブラジルが自国の法律にもとづいて処罰する。日本のかわりにさばくわけではないから、「代理」じゃないんだ。
 外国で処罰されても、日本にもどってきたら逮捕され、日本で裁判になって、罪に問われる可能性もあるからね。ブラジルでの裁判で一件落着と考えてはだめだよ。

 ケン なぜ日本で裁判できないの?

 ――ブラジルは憲法で、麻薬がらみの犯罪など特別のものをのぞいては、国民をほかの国に引きわたすことを禁じている。だから、容疑者を日本に引きわたしてもらって裁判することができないんだ。国民を守るという点から、日本も似た取り決めをしているよ。

 ポン ふーん。

 ――でも、日本は例外として、容疑者を引きわたすという内容の条約をむすんだ国には引きわたせる。日本は、アメリカと韓国とだけ、引きわたす条約をむすんでいるよ。

 ケン 日本で罪をおかして、国外ににげた外国の人ってたくさんいるの?

 ――警察庁によると、去年末現在で、国外逃亡中の外国人容疑者は656人いる。中国人が一番多くて291人。次いでブラジル人92人。このほか、日本人の容疑者も177人が国外逃亡中だよ。

 ジャン 一番多い中国の場合は、どうなるの?

 ――国外犯処罰の規定は中国にもあって、2003年にあった福岡市の一家4人殺害事件でも適用された。事件後に中国に帰国していた容疑者ふたりに、中国の裁判所は殺人罪で有罪判決を出している。

国でちがう刑罰の重さ
遠くで証言に行けない

 

 ジャン 静岡県ではほかにも、国外ににげたブラジル人が容疑者とされる犯罪があったと聞いたけど。

 ――静岡県は自動車やバイクなど製造業がさかんで、国内のブラジル人の6分の1ほどにあたる約5万人が住んでいる地域なんだ。ほとんどのブラジル人はまじめに働いて、県内のものづくりをささえているんだよ。一部の仲間が起こしたことにおこっている人や遺族に同情している人も多いんだ。

 ケン いろいろむずかしい決まりがあるのはわかるけど、日本で起きた事件を日本でさばけないのはすっきりしないなあ。

 ――ブラジル人が日本で起こした犯罪で家族をうしなった遺族の中には「国外犯処罰では納得できない」という声がある。遺族たちは、ブラジルと引きわたし条約をむすぶようにもとめて署名活動をしていて、外務省に何度も要請している。

 ポン そうなんだ。

 ――そもそも、刑罰の重さは国によってちがうから、日本だと重い刑になる罪が、外国では軽い刑になるかもしれない。遺族の気持ちからすると、やりきれないよね。それに、裁判を傍聴したり、証言しにいったりしたくても、外国では、お金の面や体力の面で遺族は負担が大きいよね。

 ジャン もっといい解決方法はないの?

 ――静岡県に住むブラジル人の団体が、両国政府に捜査とか裁判の手つづきを協力して進める「共助」を提案しているよ。外務省を通じてやりとりすると時間がかかるから、捜査機関などが捜査の書類とかを直接やりとりして、手つづきのスピードをはやめる方法さ。これから話し合いが進められるよ。

【きょうのポイント】
 ▽日本で死亡ひきにげ事故を起こし、母国ににげていたブラジル人の容疑者の裁判が、ブラジルで始まった。国外犯処罰規定をブラジルで使った初めての裁判。
 ▽国外犯処罰は、国外で罪をおかした人を、その人がいまいる国の法律でさばく規定。日本はアメリカ、韓国とだけ、容疑者を引きわたす条約をむすんでいる。
 ▽日本で罪をおかした容疑者の裁判が国外で行われると、刑罰の重さがちがう、被害者や遺族が裁判を傍聴しにいくのがむずかしい、などの欠点がある。

(2007年2月17日)


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