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●クマが人をおそうわけは?●

清水 弟記者(朝日新聞科学医療部)
ケン

 またクマにおそわれて人が死んじゃったの?

益満 記者

 そう、10月5日、長野県大鹿村でキノコとりに山に入った71歳の男の人が帰ってこなかった。さがしに行くと、頭を強く打って死んでいた。顔にクマのつめ跡があったから、おそわれたらしい。

ジャン

 こわいね。ことしはけが人も多いんだって。どうしてクマは人間をおそうの。

ポン

 クマさんて本当はやさしいと、ママはいってたけど……。

エサのブナの実が不作、里山も荒れて人里に

最悪ペースで事故続く
いそうな所近づかない

 


里におりてきたクマ。村の人たちは、おしおきして山に返しました〓ことし7月、長野市内で(信州ツキノワグマ研究会提供)

 ――ことしは本当にクマの事故が多い。長野県小谷村では9月20日、登校途中の中学3年生がクマに重傷を負わされた。
 2年前の秋にも全国でクマが大量出没した。おそわれた人は111人で、亡くなった人が長野県と富山県でひとりずつ。ことしもけが人はすでに70人をこえたし、亡くなった人も北海道でひとり、長野県はふたりと最悪のペースだ。

 ジャン クマの対策とかあるの?

 ――もちろん対策も立てた。岩手県が3月にクマ出没注意報を出し、秋田や長野でも注意報が出された。クマの大切な食料のブナの実が、ことしの秋は不作になると予想されていたからね。ブナは去年が大豊作だった。大豊作の翌年はかならず凶作になる。各県の林業試験場は、ブナやクリが豊作かどうか調べている。

 ジャン 注意報が出たら、被害をへらせるはずでしょ。

 ――注意報だけで被害はふせげない。人間が無防備で山や森に入り、クマとはち合わせしたら、クマだっておどろくよ。おどろいて腕をふり回せば、人間はけがをするし、へたをすれば死んでしまう。人間の側の注意がまだ足りないね。

 ケン クマにあったら死んだふりしてもダメなの。

 ――ダメダメ。一番大事なのは、クマがいそうな場所に近づかないこと。どうしても行くときは大勢で行く、ラジオを鳴らしたり、鈴をふったり、人間がいると知らせれば、ふつうはクマの方からにげていくんだ。

 ジャン でも最近は、リンゴ園や山に近い畑にクマが出てくると聞いたわ。

 ――それが問題だ。山すそに広がる里山には、棚田や畑、雑木林がある。でも、農家がへって林も荒れているから、その林をつたえば、クマは姿をかくしたまま里におりられる。里にはおいしい野菜やリンゴがある。サルやイノシシなどの野生動物が里に出るのも、同じ道からだよ。

 ポン クマさんの家は森じゃないの。

 ――奥山(山の奥深く)に食料がなければ、クマだって里におりてくる。昔は里に近づくと人間に追われたり殺されたりした。でもいまは人間の姿も少ない。クマと人間の住む場所の境界、バリアがくずれてきたんだ。

生ごみ放置しないなど
ともにくらせる環境を

 

 ケン クマや動物たちを山にもどす方法はないのかな。

 ――最近は、つかまえたクマに唐辛子スプレーをかけたり犬をけしかけたりして、人間のこわさをたっぷり教えてから山奥に放す「学習放獣」が行われている。
 里にクマを引きよせないためには、くずリンゴの捨て場や生ごみ、カキのとりわすれをなくし、大事な果樹園や田畑は電気さくでかこむなど、対策をがっちりやること。雑木林の下草をかり、やぶをなくせば、かくれるところがなくてクマは近づけないんだ。

 ジャン でも、えさがないクマはどうなるの。殺されるの。

 ――ジャンはやさしいね。クマはえさをさがして、遠くまで森づたいに移動する。里におりて生ごみやトウモロコシなどの味をおぼえてしまったクマは、最後には射殺される。人間に近づいて危険だからさ。ことしも、長野県だけで232頭、北海道のヒグマと本州のツキノワグマが計1600頭以上、殺されている。

 ケン そんなに。

 ――つい2、30年前まで「クマは全部殺してしまえ」という人もいた。でも、クマがいるのはすばらしいことなんだ。

 ポン なぜ?

 ――クマがすんでいる山や森にはきれいな水が流れ、サルやシカ、昆虫などたくさんの動物と植物もある。英語で「ベア・アンブレラ」といって、クマ(ベア)は豊かな自然を守るかさ(アンブレラ)の役割、守り神なんだ。

 ケン そうか、クマの事故をなくすことが、クマや森や自然を守ることにもつながるんだ。クマも森も大事にしていかないとだめなんだね。

【きょうのポイント】
 ▽ことしは2004年秋と同じように、クマに人がおそわれる事件があいついでいる。クマの食料となるブナの実の不作が原因のひとつ。
 ▽農家がへり、山と里の間に広がる里山(棚田や畑、雑木林など)が荒れたことも原因に。クマが身をかくしたまま、里におりやすくなっている。
 ▽果物や生ごみをかたづける、果樹園などを電気さくでかこむ、雑木林の手入れをするなどの対策が必要。クマの事故をなくすことが、クマや森、ゆたかな自然を守ることにつながる。

(2006年10月14日)


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