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報道の自由とプライバシー

古西洋記者(朝日新聞社会部)
ケン

パパとママが夕飯のとき話していたけど、週刊文春という雑誌が東京地方裁判所から「この記事をのせるなら、売ったり配ったりしてはいけません」と命じられたんだって。

古西記者

 でも、そのあと東京高等裁判所は、その命令を取り消したのよ。

ポン

 もう亡くなったけれど、総理大臣をした田中角栄さんという有名な政治家がいて、その娘の田中真紀子さんも衆院議員になっている。

ポン

 外務大臣をやった人だね。

古西記者

 東京地方裁判所が問題にした記事は、真紀子さんの娘さんの生活に関する記事で、娘さんのプライバシーを侵害する--傷つけると判断したんだ。

出版禁止の命令が出た翌朝、週刊文春が駅の 売店などから引きあげられました

 報道を止める判断はとても重い

 ポン そのプライバシーって、なに。

 ――きみたち、友だちに知られたくないことあるかい。

 ジャン 好きな男の子とか。

 ケン 学校の成績。

 ポン おねしょしたこと……。

 ――だれでも、胸にしまっておきたいことがあるよね。それを、だれかに勝手にいいふらされたら、いやだろう。

 ジャン 家での生活のこととか、家庭の事情とか、そういうことも、やたらに知られたくないわ。

 ――そういう、他人に勝手にのぞかれたくない個人的なことを、プライバシーっていうんだ。

 ジャン そういうことを、雑誌に書かれてしまったら大変よね。だから、出版してはいけないという命令が裁判所から出たのね。

 ケン でも、どうして高等裁判所はその決定を取り消したのかな。

 ――日本の世の中で一番大切な決まり事を定めたのが憲法なんだ。その憲法の中に、「言論、出版その他一切の表現の自由を保障する」という決まりがある。

 ジャン 国民はだれでも、自由に話したり、書いたりできるということね。

 ――そうだね。それから「検閲はしてはならない」という決まりもある。検閲というのは、役人が新聞や雑誌、放送番組などを、事前に調べて、気に入らないと直させたりすることだ。とてもいけないことなんだ。

 ケン 先生からも聞いたことがある。「言論の自由は、民主主義の大もとになっている」って。

 ――歴史で習うと思うけれど、表現の自由や報道の自由がないと、ひとにぎりの権力者が好き勝手なことをして、たくさんの人を不幸にする。日本にもそんな時代があった。戦争のころがそうだよ。

 ジャン だからといって、だれかのプライバシーを書いたりしていいの。

 ――政治家や役人、大企業の社長や団体の責任者といった人たちは「公人」とよばれている。世の中に対して責任ある立場の人という意味だ。こういった人たちの報道は大事なので、プライバシーを報じられてもしかたない場合があると世の中では考えられている。

 ケン なぜ?

 ――たとえば、ある政治家が、大きな会社の社長とぐるになって、国民のお金をつごうのいいように使おうとした、とする。

 ポン だめ!

 ――そういう不正を調べ、知らせることも、新聞や雑誌、テレビなど報道機関の大切な役割のひとつなんだ。

 ジャン 悪いことをしたときだけ?

 ――それだけじゃない。何をしたとか、何をしゃべったとか、「公人」はいつも、関心のまとだ。

 ケン 今度のような、政治家の子どもはどうなのかな。

 ――雑誌をつくっている出版社の人たちは「親の地元を引きついで政治家になる可能性がある。だから、報じる必要がある」といっている。これに対して、雑誌を出してはだめと命じた地方裁判所も、その命令を取り消した高等裁判所も、「子どものプライバシーは守られるべき」といっている。

 ジャン じゃあ、どうして、高等裁判所は「出してもいい」ということにしたのかしら?

 ――無理やり、だれもが自由に読んだり見たりできなくするということは、とても影響が大きく、めったにやってはいけないんだ。雑誌にかぎらず、新聞でも放送番組でも映画でもね。プライバシーの傷つき方がそれほどでもないと思われるときは、表現の自由の方を大事にしようと考えたんだね。

(04年4月3日)


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