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新型肺炎SARSがのこした「宿題」

行方 史郎記者(朝日新聞科学医療部)

ジャン

 「新型肺炎SARSが終息した」っていう記事が出ていたけど……。

行方記者

 世界保健機関(WHO)が、SARSの感染地域としてただひとつのこっていた台湾を指定からはずしたニュースだね。まだ治療を受けている患者はいるものの、WHOは新しい感染者が出ないので、ひとまず流行はおさまったと判断したんだ。

ケン

 じゃあ、もう安心だね。

行方記者

 いや、SARSをなおす方法はまだ見つかっていないし、ことしの冬にまた流行するかもしれないと注意をうながす研究者もいるよ。

ポン

 えーっ! くわしく話して。

冬にまた流行? 情報は素早く、病院は準備を

  ポン まず、SARSのおさらいをして。

感染者が出なかった日本でも、SARSウイルスがもれない装置を使って患者を運ぶ訓練が病院などで行われました=6月、福岡市の保健環境研究所で

 ――ことし2月に香港やベトナムで突然はやり出した新しい病気だ。「重症急性呼吸器症候群」という英語の頭文字をとって「SARS」ってよばれている。
WHOの調べでは7月までに世界30か国以上で8千人をこえる人がかかり、800人以上が亡くなった。日本人はひとりもかからなかったから本当に運がよかった。

 ケン でも、なぜこんなに被害が広がったの。

 ――SARSが、新種のウイルスで起きたことが理由のひとつだ。ウイルスというのは、この「・」(点)の中に1万個もいるような、ものすごく小さなものだ。特殊な顕微鏡でしか見ることができない。ふだん動物の体内にひそんでると考えられている。SARSウイルスの場合、どこから来たかもわかっていなくて、いい薬もまだないんだ。

 ポン ふーん。

 ――また、SARSが発生したのは中国南部の広東省だといわれているんだけど、WHOが二月に「状況をくわしく知らせてほしい」ともとめたのに、中国政府はことわった。首都の北京でもたくさん患者が出ていたのに、たいしたことはないと情報をかくしていたんだ。この情報公開のおくれが、感染者をふやしたとされている。

 ケン 情報をすばやくつたえることが大事なんだね。

 ――もうひとつは、SARSの感染の多くが病院の中で起こっていることだ。入院しなきゃならないほど症状が重くなったとき、その患者からはウイルスがいっぱいまきちらされる。それだけに、病院が感染源にならないように気をつける必要がある。

新型肺炎SARSによって死者が出た国と地域は、WTOが集計を終えた7月11日までに11にのぼりました。 イラスト・川田望
 SARSがのこした「宿題」
 ○感染者が出たときなどの情報がすばやくつたわるか
 ○患者を受け入れる病院はととのっているか
 ○冬に流行したときの準備はできているか

 ジャン どうすればいいの。

 ――患者と同じ病室に入るときには手袋とマスクと帽子をして、雨がっぱのような防護服を着るんだ。病室から出てきたときにはすぐに手を洗い、患者のさわったところはすぐに消毒薬でふく。そうした対応は、日ごろから訓練をしていないとできない。日本の病院もきちんとできるか心配という専門家もいるよ。

 ポン さっき、冬が心配といったけど、どうして?

 ――SARSウイルスの仲間は、もともと軽いかぜを引き起こすことが知られていて、冬に流行することが多い。症状が似ているインフルエンザとまちがえて、入院がおくれる心配もある。

 ジャン 油断しちゃだめね。

 ――ただ、SARSウイルスが人から人にうつる力はインフルエンザほど強くはないといわれている。流行している地域に行ったりしないかぎり、かかる心配は少ない。SARSが発生したとしても、かかった人にはすばやく入院してもらうように徹底すれば、流行はそれほど大きくならないですむはずだ。

 ケン 最近、これまであまり聞かなかった病気がはやる気がするなあ。

 ――そうだね。アフリカでは1990年代半ばから、エボラ出血熱の被害者が出ている。去年は、アメリカでウイルスが蚊を通じて人にうつる西ナイル熱が流行した。4千人以上がかかり、300人近くが亡くなった。

 ポン そういう病気が日本に入ってこないようにできないの。

 【ウイルス】大きさが1ミリの「数千分の1」から「10万分の1」と、細菌よりはるかに小さい病原体。タンパク質などからなる単純なつくりで、自分だけでは生きられません。ほかの動物や植物などに寄生してはじめてふえることができ、「生物と無生物の中間」ともいわれます。ふえるとき、寄生した相手の細胞の性質をかえてしまうため、病気の原因になります。

 ――外国から人や動物が入ることや日本人が外国に行くことを禁止するしかない。でも、いまの時代にそんなことはできないよね。SARSのような病気は、ひとつの国ではふせげない。世界の国々が協力しながら対策をとることが欠かせないよ。

 ジャン SARS騒動から学んだことを、わすれないことが大事ね。

(03年7月19日)


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