フセイン大統領がつかまっても
イラクの戦争状態はなぜつづく? |
田岡 俊次記者(朝日新聞アエラ・スタッフライター)
穴にかくれていたイラクのフセイン元大統領をアメリカ軍(米軍)がつかまえたから、イラクの戦争状態はおさまるのかしら。
いや、世の中は映画のようにはいかないよ。かえってゲリラ戦が広がる心配もあるんだ。
敵の首都を占領し、フセイン元大統領をつかまえてもまだ戦いが終わらないって、どうして。
イラクでアメリカ軍など外国軍にテロやゲリラ戦で抵抗している集団の根はおもに三つあるんだ。
くわしく話して。
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| フセイン元大統領がつかまったニュースをつたえる号外の新聞=12月15日、東京・有楽町で |
フセイン派だけが反米勢力ではないの
――ひとつはフセイン政権がつぶされて軍人40万人、役人や警察官などのほとんどが仕事をうしなった。かれらはアメリカ・イギリス軍をうらみ、それを追い出して権力、職場を取りもどそうとしている。
ふたつ目は、ほかのイスラム教国の反アメリカ・反イスラエルのテロ集団が、アメリカ軍をいためつけるチャンスと、イラクに入りこんでいるらしい。
ポン もうひとつは?
――外国軍の侵攻、占領におこるふつうの民衆だ。アメリカ軍が真夜中に民家に入りこんで、テロリストがいないか、乱暴な家宅捜索をしたり、街角で市民をつかまえて身体検査をしたり、通りがかった一般の人の車を自爆テロとまちがえて射撃したりするから、仕返しをしようと銃をとるんだ。
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| イラク南部のナーシリヤ近くで12月11日、燃え上がるトラックから食料をうばう男たち。フセイン元大統領がつかまっても、こうした混乱がつづいています |
ケン 戦いは終わらないんだ。
――そう。フセイン元大統領は四月はじめに首都バグダッドから脱出してから権力をうしなっていて、大統領の座に復帰する可能性はなかった。もともと人気のある人でもなかったから、テロやゲリラ活動をする人々はフセイン元大統領のために戦っていたわけじゃない。彼がいてもいなくても、この3つの集団はアメリカ軍に抵抗するだろうね。
ジャン フセイン元大統領がつかまって、かえってゲリラ戦が広がるかもしれないというのはなぜなの。
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イスラム教の代表的な宗派。スンニは「古くからの伝統(スンナ)にしたがう人々」という意味で、イスラム世界全体ではスンニ派が圧倒的多数をしめています。シーアは「党派」の意味。両派は、むかしから対立してきました。
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――イスラム教はスンニ派とシーア派など、いくつかの派がある。イラク北部はスンニ派、南部はシーア派と、だいたい分かれている。昔から豊かで教育水準も高いスンニ派が、政府の高官に多かった。フセイン元大統領も北部のスンニ派だ。シーア派はそれに不満で反乱を起こし、おさえこまれたこともある。
だから、南部のシーア派は反フセインで、アメリカ・イギリス軍に対しても、これまであまり抵抗しなかった。でも、反フセインだからアメリカ側というわけではない。どっちもきらいだけど、アメリカ軍がフセイン元大統領を追いかけている間は中立をたもった。「敵の敵は味方」というアラブのことわざの通りだ。ひとつの敵が消えると、のこるひとつの敵への反感が高まるのは自然だろう。
ポン アメリカ軍と戦うのは危険だと思わないのかな。
――危険だと思うから、イラク・シーア派の指導者は占領を批判し、占領当局のトップとの面会をことわる一方で、「抵抗活動は待て」とおさえてきた。しかしアメリカは、来年5月までに急いで議会や臨時政府をつくり、六月に権力をわたす予定だ。選挙をする時間のよゆうはない。
人口の60パーセント以上をしめるシーア派は、まず選挙で議員をえらぶことを要求してきた。占領軍が選挙もせずに議員を任命すればシーア派のいかりは高まり、指導者のおさえもきかなくなる可能性は高い。
ジャン 自衛隊が行くのは南部でしょう。だいじょうぶ?
――いまはシーア派の多い南部では武器による抵抗やテロはあまり起きていないけれど、シーア派の反アメリカ感情がいつ表に出るか心配だ。陸上自衛隊は550人がサマワという町から10キロ以上はなれた砂漠に、城のような基地をつくるから、中にいればまず安全だ。でも、城にこもるだけでは何のために行くかわからない。
ケン たしかに、そうだなあ。
――復興支援活動のため小部隊で各地に出たとき、情勢が悪くなれば襲撃される可能性はある。イラク人が外国軍に反感を持つのは当然だけど、一方で病院、学校、水道施設などを直してくれるのはうれしいはずだ。
できるだけ住民に好かれるよう気をつけ、テロ集団が来たら教えてもらえるようにするしかないだろう。地元の人たちとの友好関係に命がかかる形になるね。
(03年12月28日)
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