朝日小学生新聞
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事あるごとに思い出す生徒が何人かいる。その一人のA男の話だが、小学4年生の一学期、5月の連休明けから学校に行けなくなった。不登校である。
原因ははっきりしないまま、それは6年生の卒業時まで続いた。母親もフルタイムで働いていたので、A男は一人で家で留守番?をしていたのだ。両親の悩みや心配はいかほどだっただろうか。

実は、A男は外に遊びに出ることもなかったようだが、週3回の塾には休まず通ってきた。宿題を忘れることはないし、テストも良い、勉強はよく出来た。受験クラスの上位にいる。塾側からすればとくに問題はなく、私達は母親との秋の面談まで気がつかなかったのである。なんとも情けない想いをした。
「彼は家に一人でいて何をしているんでしょうかね?」と聞いた。「テレビを観たり、塾の宿題をしたり、本を読んだりしているようです」と。たしかに国語はよく出来た。どの教科のテキストを読むのも速いし、読み間違いもなかった。「子供部屋の押入れを開けると、本がナダレのように落ちてきます」という話は忘れない。

A男は東京の御三家といわれる中学も合格圏内であったが、自転車で10分程の私立中学を選んだ。そして、その6年後の3月に嬉しい報告があった。「先生! おかげさまで東大に合格しました」
聞けば中学・高校は休むことなく通えたようだ。何度か面談をした母親の顔が浮かんでくる。「何より良かった、おめでとう」話をしながら、押入れの本のナダレ現象を思い出した。

「ところで、君が本を好きになったというか、読書にハマったきっかけになった本はあるの?」「あるんです」俄然興味が湧いた。小学生のA男はどんな本を読みながら一人で家で過ごしていたんだろうかと。

「エッ?何?聞きたいな」私はおそらく身を乗り出したに違いない。「最初に読んだのは、小学3年生の時ですが、岩崎幼年文庫から出ている森一歩さんの『氷原の王者フー』です」「よく覚えているね」「ハイ、面白くて何度も読みましたから」「何度も?5,6回?」「いえ、もっと。50回、60回かな?そのたびに押入れから本を探しては引っ張り出すのでナダレが起きるんです」と。
私は早速その本を探してやっとのおもいで手に入れた。いろいろな想いも交錯して胸を熱くして読んだ。この本は国語力をはるかに超えて、間違いなくA男の心を育てたんだなと嬉しくなった。

※岩崎幼年文庫「氷原の王者フー」森一歩著…現在は絶版になっています。

東京都練馬区の塾『受験 松井塾』 松井光裕(まつい みつひろ)
松井塾 http://www.matuijuku.com

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