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過密ダイヤ、防止装置の不備
兵庫県尼崎市のJR宝塚線で四月二十五日朝、通勤電車が脱線して線路わきのマンションに突っ込み、百七人が死亡しました。列車事故の死者数でみると戦後四番目の惨事です。
事故の直接的な原因は速度の出し過ぎが有力になっています。現場は制限速度が七〇キロに設定されたかなりきついカーブですが、列車は一〇〇キロを超えるスピードで進入していました。
ただ、この点にだけ目を奪われると「制限速度をオーバーした運転士が悪い」という結論で終わってしまいます。もちろん、運転士の責任は問われるべきですが、それだけにとどまっては、将来の事故防止に役立ちません。事実、事故を検証する過程で、JR西日本が抱える組織の問題が次々と明らかになっています。
第一に競争を重視する余り、安全がおろそかになっていたという批判です。JR西日本は宝塚―大阪間が私鉄の阪急より七分速いことを売り物にしていました。二〇〇三年末のダイヤ改定では快速電車の停車駅を増やしたのに、ラッシュ時の所要時間をそのままにしました。ガラス細工のように組み立てられた過密ダイヤを「曲芸的」と呼ぶ関係者もいるほどです。
第二にもうけを増やすため、安全への投資まで削られていたという指摘です。JR西日本は今年三月の決算で過去最高の利益を記録した優良企業です。半面、列車がスピードを出しすぎると自動的に減速する新型の自動列車停止装置(ATS\P)の導入率は約八%に過ぎず、事故を起こした宝塚線では、赤信号を無視したらブレーキがかかる旧型のATSしか設置されていませんでした。
運転士の教育も見直し必要
第三に運転士に対する安全教育が不適切だったという意見です。JR西日本では運転手がミスをすると、業務からはずして「日勤教育」を受けさせます。ところが、草むしりやペンキ塗りが課せられる場合もあるなど、安全運転の意識や技量の向上を図るというよりも、「処罰」の色彩の強いものだというのです。
事故列車の運転士は直前の伊丹駅で停車位置を行き過ぎるオーバーランをし、一分半の遅れが出ていました。日勤教育を恐れ、無理に遅れを取り戻そうとしていたのではないか、と指摘する声も出ています。
事故を二度と起こさないためには、このような運営面での問題点や組織的体質にもメスを入れる必要があります。捜査当局は運転士だけでなく、JR西日本の安全対策部門の社員についても業務上過失致死などの疑いで捜査しています。
今回の事故は、科学時代の人間と機械をめぐる微妙な関係に改めて焦点をあてました。人間は必ずミスを犯します。だから、人間がミスをしてもこれを機械がカバーする仕組みが導入されてきました。これは当然の対策です。新型ATS\Pもその一例でしょう。
しかし、判断をすべて機械にゆだねれば安全というわけでもないのです。今回の事故でも、特急電車が直前で緊急停止し二重衝突を免れましたが、これは砂煙が上がるのを見た運転士のとっさの判断によるものでした。本当に安全なシステムとは、この運転士のような豊かな経験と技量を持った人間を育てることによってはじめて可能になるのかもしれません。
(久保谷 洋・ジャーナリスト)
2005年5月15日
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