 |
| 韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領 |
韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が国会で弾劾(だんがい)された、というニュースを耳にしましたか? 日本には大統領もいないし、弾劾という言葉になじみのない人も多いはず。お隣の国で何が起きているのか、説明しましょう。
(市川 速水・朝日新聞ソウル支局長)
|
任期中に辞めさせる手続き
国会で議決、憲法裁で審理へ
|
弾劾を辞書で引くと「罪や不正を暴き責任を追及すること」「公務員の罷免(ひめん)手続きの一つ」とあります。日本にも裁判官を弾劾する制度が憲法で定められています。クビとか解雇という言葉を使わないのは、よほどのことでは失職しないからです。
会社員や普通の公務員だったら、社長や大臣が辞めさせることができるかもしれません。でも、例えば裁判官は、罪を犯した人を裁いたり争いごとの仲裁をしたりする司法の中心なので、利害関係に縛られない自由が約束されています。その代わり、裁判官にふさわしくない行為をした場合、別に弾劾の制度を定めて責任を追及するわけです。
韓国の話に戻しましょう。盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は、韓国を代表する顔であり、国民が2年前、直接投票して選んだ人です。政治も外交も教育も、大統領が中心になって決めます。国民が選んだという意味では、日本の総理大臣よりも重い存在と言っていいかもしれません。5年間の任期中は基本的に辞めさせられることはありません。
ただ、憲法や法律に違反した場合、弾劾の訴追(そつい)を国会が議決することができるとされています。議員全体の3分の2が賛成すれば訴追でき、その後、憲法裁判所という韓国独特の憲法関係の問題を扱う裁判所に送られて弾劾が妥当かどうかを決めます。
盧大統領は、今月12日にこの制度で国会の訴追を受け、憲法裁が審理を始めています。180日以内に結論を出すことになっており、今は、盧大統領は形の上では大統領のまま、でも仕事は全部、首相が代行しています。憲法裁が弾劾を認めれば職を失い、逆に裁判所で否定されれば大統領の権利が復活します。
|
選挙応援発言は違反と野党
結論は総選挙の結果がカギ
|
では、盧大統領はどんな悪いことをしたのでしょう。この点が、実は最も微妙なところなのです。
韓国では4月15日に国会議員の総選挙があり、299人全員が選び直されます。日本は衆議院、参議院がある二院制で衆議院には解散もありますが、韓国の国会は一つだけ。しかも四年間解散もないので、大変大きな行事で、最近は政界が総選挙の話題一色になるほど関心を呼んでいます。
その最中の2月下旬、盧大統領は、自分を支持している政党「開かれたウリ党」を総選挙で応援すると語りました。大統領と対立している野党のハンナラ党、新千年民主党は「選挙違反だ」と怒りました。韓国では、大統領といえども、公務員は選挙運動をしてはいけないと決められているからです。選挙管理委員会はある程度の選挙違反を認め、2度としないよう警告しましたが、大統領側は「納得できない」と反論しました。
野党はさらに怒り、もともと議席の3分の2を占めている強さを利用して弾劾を決めたというわけです。総選挙前でなければそれほど問題にはならず、弾劾までは至らなかったかもしれません。憲法裁では、大統領の発言が、弾劾されても仕方のない悪質なものかどうかが争われることになりそうです。韓国の国内では毎日、弾劾反対、賛成の市民集会が起きています。
憲法裁の結論が出るのは、総選挙後になりそうな気配ですが、そうするとウリ党の勝敗が気になります。大統領は「選挙で自分の進退を決める」とも言っているからです。もしも3分の1を超えなかった場合、味方を失った大統領は、本当に辞任に追い込まれる可能性もあります。弾劾の行方と総選挙が糸のように絡まり、目が離せません。
(04年3月28日)
|